996で働く北京漂流プログラマー

クリッピングから
朝日新聞2019年9月24日朝刊
シリーズ 中国建国70年 大国の足もとで(1)
「996」過酷だけど 働きづめデジタル農民工の夢


  (略)
  「996」
  午前9時から午後9時まで週6日、
  金融やITなど一見、華やかな先端産業を支える若者らの
  過酷な労働実態を指す言葉として、中国で定着した。
  996勤務を続ける呉さんは5月、
  「北京漂流プログラマーの日常」と題した動画をネットに投稿した。
  (略)


  8時に家を出て、1日延べ30万人が行き交う駅を抜けて
  職場に着いた後は、ひたすらキーボードをたたく。
  そんな映像に勇ましい音楽と字幕が重なる。


  1日のプログラミングは1万行
  飲まず食わずで感情を持たない機械だ。


  その姿は、社会問題になっている
  「996」の若者のイメージそのままだ。
  しかし、そこで画面は一転し、
  「だけど同僚たちが見ている実際の僕は……」と字幕が入る。


  音楽はコミカルなものに変わり、
  仕事の合間にバナナを食べたり、
  仮眠をとったりする姿が挟まれる。
  どうして、そんな構成にしたのか。
  呉さんは「僕たちは機械なんかじゃない。
  疲れもするし、おなかもすく人間だと伝えたくて」と言う。
  (略)


  「漂流プログラマー」といういくぶん自虐的なネーミングには、
  働いても働いてもなかなか北京に根づけそうにない現状を投影した。
  動画は、これから先、都会に出てくる地方の若者に
  見てもらうことを意識した。


  厳しい現実を遊び心でくるむのは、
  彼らに前向きなメッセージを届けたいからだ。
  「めげずに働き続ける自分のような人間がいたということが、
  少しでも彼らの励みになればいい」
  (略)
                      (北京=平井良和)


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  キーワード: 中国の都市化と戸籍制度


  中国政府は農村と都市の住民戸籍を厳格に区別し
  人口移動を制限してきたが、
  1980年代以降、改革開放政策の下で
  内陸部の農民が沿岸部の都市に流入
  80年に人口の約19%だった「都市住民」は、
  2018年に約60%に増え
  約8億3千万に達した。
  (略)


  都市戸籍を持たない出稼ぎ農民などが社会サービスを受けられず、
  子どもも就学できないなどの問題が深刻化。
  政府は今年、人口500万人未満の都市で、
  戸籍の取得制限を撤廃・緩和するとの方針を打ち出した。


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1978年に20万人強だった北京市の地方出身者は
2017年には800万弱に増えた。
40倍近い増加だ。
北京で働くデジタル農民工はその800万人に含まれる。


都市戸籍を持てないために社会サービスが受けられず、
結婚して子どもができてもその子どもは就学できない。
漂流プログラマーとして稼げるだけ稼いで
後のことは後で考えるという生活に必然的になるだろう。
彼らにとって北京でマンションを買い、パートナーと暮らすのは
遠い夢であることが記事から読み取れる。