『かがみの孤城』を読んで、遅ればせのファンになった。
とっくに愛読者になっている人たちが大勢いるから、
図書館で予約を入れてもいつ借りられるか分からない。
でも、”ご縁”ができたとき、思いがけず手にするのも楽しいものだ。
辻村深月『ツナグ 想い人の心得』(新潮社、2019)を読む。
- 作者:深月, 辻村
- 発売日: 2019/10/18
- メディア: 単行本
8歳になった秋山家当主・秋山杏奈(あんな)の台詞を抜き書きしながら、
この作品の要である使者(ツナグ)を説明してみる。
「死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口。私が使者だよ」(p.9)
「……霊能者が死んでしまった人を自分に憑依させたり、
使者からのメッセージを受け取って伝えるようなやり方じゃないってこと。
私は、死者本人とあなたが会う機会を用意する、
あくまで単なる面会の仲介人なの」(pp.12-13)
「最後まで、とりあえず説明させてね。
まず、使者は、生きている人間、たとえばあなたから依頼を受ける。
すでに会うことが不可能になった、死んでしまった人間の誰に会いたいか、依頼を受け、
持ち帰って、対象となった死者に交渉します。あなたが会いたがっていることを伝え、
それに応え、会うつもりがあるかどうか意志を確認する。
了解が得られれば、私が間に入って、会う段取りを整えます」(p.13)
「生きてた時と変わらない姿で現れるよ」(p.14)
「使者の用意した面会の場で、死んだ人の魂は実体を持つことが許される。
生きた人間は、現れた死者を目で見ることもできるし、触ることだってできるよ」(p.15)
「申し訳ないけど、使者と依頼人が会えるかどうかは、すべて”ご縁”によるの。
どれだけ電話をかけても繋がらない人がいる一方で、
繋がる人のところには自然と縁あって繋がれる」(p.23)
「会いたいと希望することはできるけど、死者の方にもそれを断る権利がある。
——今日依頼を受けたところで、あなたの名前と会いたい理由を、
死者に伝えることはできるけれど、
死者の方にも、その希望を受けるかどうかを選ぶ権利がある。
残念ながら、相手が拒否すれば、今回はここまで」(p.25)
「死者が設ける面会は、死んだ者と生きた者、どちらにとっても一度きりの機会なの。
一人の死者に対して、会うことができる人間はただ一人だけ」(p.25)
この作品は5章からできている。
第一章「プロポーズの心得」で
以上の使者(ツナグ)と依頼者のルールを理解してしまえば、
読者はどこに運ばれるか分からない旅を楽しもうと頁を繰ることになる。
第一章の後「歴史研究の心得」「母の心得」「一人娘の心得」「想い人の心得」と続く。
ときにルールすれすれの境界線上で物語が展開していくが、どれも似ていない。
「謝辞」にこんな文章を見つけた。
また新潮社の木村由花さんにも、心からの感謝を。
由花さんの存在なくしては、『ツナグ』が生まれることはありませんでした。
時間がかかりましたが、約束通り二作目も本になりましたので、
いつか、歩美(引用者注:本作に登場する現役の使者。
「あゆみ」と読むが20代半ばの男性でおもちゃメーカー企画担当)に頼んで
渡しに行けたら嬉しいです。
(p.286)
初出:"yom yom" vol.31-52(断続的に5回に分けて掲載)
この作品の前作『ツナグ』で
2011年、第32回吉川英治文学新人賞受賞。
(一作目が文庫になっています)