ウグイスの鳴き声が乱れ飛んでいる(梅津時比古)

クリッピングから
毎日新聞2021年4月24日朝刊
梅津時比古「音のかなたへ」
ウグイスの声


月一回、毎月第4土曜日は、
このコラムを読むのが楽しみ。
音楽のように流れ、変幻自在する文章なのだ。


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  ウグイスほど、鳴き方が上手(うま)いか下手か分かる
  鳥は少ない。
  ホーホケキョ、ケキョ、ホッホーー。
  鳴き声によって、春の日差しが明るんだり、
  反対に光が崩れ落ちたりする。


  時にビブラートのかかったような声がするのは、
  しばし葉陰で風を受けるのを楽しんでいる風情。
  何度も鳴いて、練習しているのか、真似(まね)しているのか、
  確かにうまくなっていく。
  コンクール会場でも、似たような感覚になるときがある。
  (略)


  これ(引用者注:アンデルセンの童話『夜鳴きうぐいす』)を
  元にストラヴィンスキーが作曲したオペラ《夜鳴きうぐいす》が
  新国立劇場で上演された。
  こちらは、夜鳴きウグイスを聴いて大病から立ち直った皇帝が、
  機械仕掛けの夜鳴きウグイスを重用するところなど、
  あたかも対面とオンラインのはざまに悩む現代を予言するかのようだ。
  (略)


  コピーがあるから本物に気づくのであって、
  さて本物とは何か、と考えていると、
  夜のしじまを伝えるオーケストラが鎮まってゆくなかで、
  さまざまなウグイスの鳴き声が乱れ飛んでいるように思えてきた。


  真似をする鳥、真似を拒む鳥、
  何の間違いもなく完璧を繰り返す鳥、
  よく鳴けずにつまずく鳥たちの声、声、声ーーー。
  幻想と事実の見境が付かず、
  幻想が事実であり、事実が幻想である気がする。


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