クリッピングから
Eテレ「100分de名著」サイト
番組10周年記念対談「名著とともに歩んだ10年」
若松英輔&秋満吉彦
(同上サイトより)
僕は2020年7月放送『共同幻想論』から「100分de名著」を見始めた。
若松・秋満の対談は
これまで10年、100回以上放送してきた番組のハイライトを案内してくれる。
3月放送の「100分de災害を考える」のシリーズで、
2011年にスタートした「100分de名著」がまる10年目となりました。
そこで、歴代もっとも多く番組講師を務めた批評家・若松英輔さんと
歴代もっとも長くプロデューサーを務めたAこと、秋満吉彦が、
裏話を交えながら番組10年の歴史を振り返り、
番組の魅力を改めて掘り起こす対談を企画しました。
前後編でお送りします。
ぜひご一読ください。
(構成:仲藤里美)
アラン『幸福論』 2011年11月 (100分 de 名著)
- 発売日: 2011/10/25
- メディア: ムック
若松 まず、アランの『幸福論』は、
実は初めて「100分de名著」を見た回なのですが、
こんな番組があるのか、と思いました。
まだ震災から半年あまり、社会の雰囲気も、
あと節電が叫ばれていたので物理的にも街が暗かったときです。
テレビでは、津波や原発事故の映像、
そして人々が悲しんだり苦しんだりしている様子ばかりを見続けていた。
そんな中で、「幸福とは何か」を教えてくれる番組があるというのは
とても新鮮でしたし、ある意味で光り輝いて見えたんです。
また、『幸福論』はもともと愛読書の一冊でもあったのですが、
番組での解説を聞いていて、
いい意味で「知っている内容とまったく違うな」と思いました。
ここは読み込めていなかった、ということがはっきりと分かってきて。
何度も読んだはずの本が自分の中で新しく蘇ってくるというのも、
とても新鮮な経験でした。
(略)
メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』 2015年2月 (100分 de 名著)
- 発売日: 2015/01/26
- メディア: ムック
秋満 普遍的なことが描かれているが故に
時代を超えて残ってきた本たちは、
世界で今起こっている問題の構図を見事にあぶり出してくれる。
名著というのはいわば、現代を読む教科書なんだ──。
そのことを特に強く感じたのは、
2015年2月に放映した『フランケンシュタイン』のときです。
企画時にはもちろん予想もしていなかったことですが、
放映の直前、15年の1月にイスラム過激派によるテロ事件
「シャルリー・エブド襲撃事件」が起こりました。
前年6月にはイラクやシリアで勢力を拡大した
イスラミック・ステート(IS)が国家樹立を宣言しており、
まさに世界はテロの時代に入っていったわけです。
(略)
近代が見過ごしてきた「歪み」が
そういう形で一気に吹き出してきたのが2014年であり、
その端緒ともいえるテロ事件が、
中東地域ではなく西洋のパリで起こったというのは
非常に象徴的だったと思います。
『フランケンシュタイン』もまた、19世紀初め、
フランス革命や産業革命という急激な変化を経て、
社会全体がきしんでいるような時代に書かれた作品です。
そして物語の主人公、フランケンシュタイン博士によって
つくり出された「怪物」は、もともとは非常に善良な性格だった。
それが、外見の醜さゆえに苛烈な迫害を受け、
やがて人類への復讐を誓うようになっていく。
純粋な魂が、「正義」の言葉によって追い詰められて
変貌していくその様を、作者のシェリーは克明に描き出しています。
これは私たちが見過ごしてきた、
テロリズムを生み出す構造そのものでしょう。
怪奇小説的な取り上げ方をされることが多い作品だけれど、
本来は非常に哲学的な本だと思いました。
この『フランケンシュタイン』あたりから、
露わになってきた近代の歪みに対して真正面から向き合うために、
どんな名著を読むべきかということを意識するようになりました。
(略)
下線部クリックで対談全文を読むことができます。
- 作者:アラン
- 発売日: 1998/01/16
- メディア: 文庫
- 作者:メアリー シェリー
- 発売日: 2014/12/22
- メディア: 文庫
- 作者:英輔, 若松
- 発売日: 2020/07/27
- メディア: 単行本
- 作者:秋満 吉彦
- 発売日: 2019/02/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)