クリッピングから
朝日新聞2021年9月11日朝刊
息子奪ったテロ 探った20年
9・11報告書翻訳 若者も知って
居間の引き戸を開けると、
イスラム教、タリバン、テロから米軍情報機関まで、
大量の9・11に関連する本が押し込まれていた。
「もう何冊あるかわからない」。
東京都目黒区の自宅で、住山一貞(かずさだ)さん(84)は苦笑した。
2001年9月11日の夜。
テレビのニュースを見ていると、
見覚えのあるビルから黒煙が上がっていた。
「ニューヨーク(NY)のタワーが燃えています」
約2カ月前、富士銀行(現みずほ銀行)のNY支店に赴任していた
長男の杉山陽一さん(当時34)を訪ね、タワーで食事をしたばかりだった。
燃えているのは息子がいる方の棟ではない。
そう確認した直後、2機目がもうひとつの棟に突っ込んだ。
翌年4月、陽一さんの指の一部だけが見つかった。
検視官は「残りは蒸発した」と告げた。
空を漂う息子に会いたい。
妻のマリさん(81)と毎年9月に現地を訪れるようになった。
04年の帰途、NYの空港の売店で
「9・11調査委員会報告書」を見つけた。
500㌻を越す米議会超党派による報告書だった。
テロリストは誰だったのか。
彼らを生んだ社会とはーー。
息子の死の理由を求めて、
報告書を10年ほど前から改めて広げ、一人で訳し始めた。
早朝、食卓に報告書とパソコンを置き、辞書をめくった。
進むのは1日3㌻程度。
英作文の講座を受講し、コーランを学ぶ講座にも通って通読した。
(略)
クラウドファンディングで費用を集め、出版のめどがついた。
息子の命日の11日、
「9/11レポート 2001年米国同時多発テロ調査委員会報告書」
(税込み3960円、出版社「ころから」が書店に並ぶ。
(略)
年内には、9・11を日本の視点で解説した本もまとめる予定だ。
あのテロを知らない若い世代に手にとってもらえればと願う。
(宮地ゆう)