クリッピングから
エマニュエル・トッド/大野舞訳
『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書、2022)
2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。
日本のメディアにも連日引用される
「ロシア侵攻図」を作成している戦争研究所。
その運営の主体に関するトッドの解説が参考になった。
思想的にも、ミアシャイマー(引用者注:元米空軍軍人、
シカゴ大学教授/国際政治学者)のような冷静な現実主義者がいる一方で、
アメリカは国務次官のビクトリア・ヌーランド
(父方の祖父はロシアから移民したウクライナ系のユダヤ人)のような、
反トランプで、断固たるロシア嫌いのネオコンもいて、
破滅的な対外強硬策を後押ししています。
ヌーランドは、ウクライナ情勢の担当官で、
2014年の「クーデタ」(引用者注:同年2月22日の
「ユーロマイダン革命」を指す)にも深く関与したと指摘されています。
(略)
このネオコンたちは、
ブッシュの時代は共和党の側についていましたが、
反トランプの立場に立ってから、
ヒラリー・クリントンと民主党の側に転身しています。
国務次官ヌーランドの夫は、
ネオコンの代表的論客であるロバート・ケーガンです。
彼はイラク戦争を支持し、
「世界の民主主義の行方は、すべてアメリカ軍にかかっている」
と妄想しているような人物です。
ロバート・ケーガンの弟は、
軍事史専門家のフレデリック・ケーガンです。
そのフレデリックの妻は、戦争研究所所長のキンバリー・ケーガンで、
ケーガン一族は、まさに「ネオコン一家」なのです。
西側メディアでは、連日、
戦争研究所が作成した「ロシア侵攻図」が示されていますが、
この研究所が「反ロシア」「親ウクライナ」の立場に立っていることは明らかで、
これを鵜呑(うの)みにしてよいのか疑問が残ります。
そしてロバート・ケーガンとフレデリック・ケーガン兄弟の父は、
ドナルド・ケーガンで、ギリシア古代史の大家です。
軍事史の専門家でもある彼が、
ケーガン家をネオコンへと転身させたのです。
この父ドナルド・ケーガンと二人の息子たちのことを思うと、
アメリカの「反ロシア」のネオコンの中心部に、
皮肉にも、権威的な父親と二人の息子という
「ロシア的家族構造」が見えるようで、
奇妙な感覚に囚われます。
(pp.80-82)
(John Mearsheimer: Why is Ukraine the West's Fault, The University of Chicago)