新保祐司評:山口昌子『パリ日記』(全5巻)(藤原書店、2021-)

クリッピングから
藤原書店PR誌「月刊 機」2022年8月号(No.365)
書評「パリで書かれた、平成の『断腸亭日常』ー 『パリ日記』を読んで」
文芸批評家 新保祐司(しんぽ・ゆうじ)



  私が、この四冊の日記にライトモティーフとして聴いたのは、
  筆者の上司の住田良能(ながよし)氏についての記述である。
  赴任の際の「上層部は反対している。ダメだったら一カ月で戻す」
  という独特の叱咤激励からして並みの人物ではない。


  その後何回も登場するが、それぞれ印象鮮やかである。
  そして、日記の第四巻最後の日、
  退社の日である二〇一一年九月三〇日の記述にも出て来るのには
  何か宿命的なものが感じられる。


  「一九時社の一階の大食堂で編集局異動の合同歓送迎会に出席。
  同じテーブルの近くに住田相談役。
  誰かが『○○さんが住田さんの体調はどうですか、と言っていました』というと、
  『死にそうだ、と言っておいて』と答えたので一同沈黙。」


  住田氏は、二年後に死去した。
  氏の「白鳥の歌」を太字にしたのは、
  詩人の深い悲しみの表出である。

                            (pp.16-17)



(第4巻まで刊行済み)