原田ひ香『三千円の使いかた』(中公文庫、2021/中央公論新社、2018)

ベストセラーになっていたのは知っていたけれど、
単行本、文庫を合わせて60万部を突破していたんだね。
地元の区立図書館サイトで調べると
単行本398件、文庫527件の予約が入っている。
原田ひ香『三千円の使いかた』(中公文庫、2021)を読む。



垣谷美雨(かきや みう、作家)の解説から引用する。


  私自身、子供たちが巣立ち、
  やっと自由の身になれたと肩の荷を下ろした頃、
  同じように身軽になったかつての同級生などから「旅行しようよ」と、
  頻繁(ひんぱん)に誘われた時期がありました。


  ですが、計画のほとんどは頓挫(とんざ)しました。
  たまたまかもしれませんが、
  私の友人たちは経済格差がとても大きいのです。
  例えば、都内にある高級住宅地の大地主の一人息子と結婚したリッチな女性もいれば、
  いわゆるダメンズと結婚して老後が不安といった女性たちもいて、
  振れ幅が大きすぎるのです。
  (略)


  そして、旅行の計画を話し合えば合うほど、
  人間関係がこじれていき、精神的にダメージを受けました。
  乗り物のクラスやホテルの等級や航空会社などへのこだわりが各人にあり、
  どれくらいの旅行費用なら高く感じるか、
  それとも安く感じるのかといった感覚の差も大きくて、
  妥協(だきょう)点が見つかりませんでした。


  学生時代は腹を割って何でも話せた親友であったはずなのに、
  お金の話となると互いにオブラートに包む言い方しかできず、
  結局はどうしても折り合わず、旅行を諦めざるを得ませんでした。
  (略)


  そういった経験から、友人たちとの付き合いは、
  互いの家に招いてケーキとコーヒーで何時間もおしゃべりしたり、
  レストランでランチするくらいがちょうどいい、
  それが互いのプライバシーを尊重した
  大人の付き合い方ではないかと(寂しい気もするけれど)
  思うようになったのでした。
  旅行会社の「おひとり様ツアー」が流行(はや)るはずです。
  (略)


  お金の使い方には、その人の生き方がギュッと詰まっています。
  サイフに入っている三千円をどう使うべきか、
  その追求は、幸福の追求と同義であることが骨身に染みます。
  (略)


佐藤優さんが連載「ベストセラーで読む日本の近現代史」で本書を取り上げている)