亀山陽司『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書、2022)

佐藤優さんが週刊ダイヤモンド連載「知を磨く読書」で紹介、
興味を持った。
亀山陽司『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』
PHP新書、2022)を読む。



著者略歴を引用する。


  1980年生まれ。
  2004年、東京大学教養学部基礎科学科科学史・科学哲学コース卒業。
  2006年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了。
  外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館
  在ロシア日本大使館プーチン大統領訪日準備事務局など、
  約10年間ロシア外交に携わる。


  2020年に退職し、
  現在は林業のかたわら執筆活動に従事する。
  日本哲学会、日本現象学会会員。北海道在住。


「おわりに」から引用する。


  本書でも、国際政治における「正義」というものが
  いかに不確実なものであるかについて触れた。
  ウクライナ情勢に関する報道の多くは、
  ロシアによる攻撃でウクライナの無辜(むこ)の市民の命と生活が
  脅かされているという内容であり、
  ここから我々視聴者が受ける印象は、
  プーチン戦争犯罪人であり、
  人道的にロシアの行動は決して許されるものではない、
  制裁を強化し、ロシア政府を懲(こ)らしめるべきだ
  という道義的判断が大勢を占めていたと思われる。


  その印象を否定するつもりはまったくないが、
  そこでとどまっていては国際政治の議論は進まなくなってしまう。
  なぜならば、国際社会には絶対的な真理の法廷が存在しないからである。
  ここにはどこにも公正中立な第三者はいない。
  警察も裁判所もないのである。
  真実が明らかになり、
  公正な裁定(正義)が下されるなどということは
  まったく期待できない。


  ここにあるのは、当事者及び関係国、第三国の立場と主張、
  すなわちそれぞれの「国益という大義」のみである。
  つまり、国際政治の現実においては、真実と正義に代わって、
  それぞれの大義が裁定を下されないままに飛び交い、
  ぶつかり合っているのである。


  このような現場で一体何が可能なのか、
  はたと立ち止まって考え込んでしまうのだが、
  我々に与えられた道具は、良識、すなわちバランス感覚しかない。
  つまりこれが外交というものなのだが、
  このときに最も重要なのは、
  相手の立場や主張に耳を傾けるということである。
  そうでなければ決して外交交渉などは成功するはずがないからだ。
  (略)

                         (p.263-264)


本書の目次は以下の通り。


  はじめに 目が離せない国ロシア
  序章 ロシアの行動を理解するために
  第1章 ロシア帝国の4つの地政空間
  第2章 ロシア外交の方向性を変えた19世紀
  第3章 ヨーロッパの地政学〜世界大戦期のロシアとドイツ
  第4章 ロシアン・イデオロギー
  おわりに
  主な参考文献(和書)

    編集:前原真由美(PHP研究所
    編集協力:藤本佳奈(アップルシード・エージェンシー)