本村凌二評:石崎晴己『エマニュエル・トッドの冒険』(藤原書店、2022)

クリッピングから
毎日新聞2022年12月24日朝刊
「今週の本棚」本村凌二評(東大名誉教授・西洋史
エマニュエル・トッドの冒険』石崎晴己著(藤原書店・4840円)



  われわれ日本人は同調圧力に弱いというが、
  学究の徒も例外ではない。
  新しい物の観方(みかた)や説明の仕方をすることに慎重で、
  これまでのやり方を多少ズラすくらいで済ませがちである。
  だから、フランスのエマニュエル・トッドのような学者は
  なかなか出ないのではないか。
  (略)

  それでも、トッドの学究の基礎となるものは、
  まずは家族システムの人類学であり、次に人口統計学であろう。
  本書は、彼の著作の大半を翻訳し、
  日本に紹介してきた比類ない研究者による最良の手引きである。

  現代最高の知性のひとりトッドは、
  評者と同じく団塊の世代に属する。
  われわれの青春時代には、
  ソ連を中心とする社会主義圏はどっしりと安定しており、
  やがて地球規模で席捲しかねないほどの勢いがあった。

  そのころ、留学先のケンブリッジ大学
  博士論文を提出したばかりの25歳の青年が、
  『最後の転落』(原著1976年公刊)と題する気鋭のデビュー作で、
  来たるべきソ連の崩壊を予言したのは、とんでもなかった。
  (略)

  トッドの歴史人口学の要点は、
  なにはともあれ家族システムと心性に
  因果関係があることの発見であろう。
  (略)

  これらの冒険をふまえ、本書の最後には
  「『われわれは今どこにいるのか』を読む」とある。
  この最新作の紹介を
  本欄掲載の佐藤優氏の筆に委ねられるのは幸いだ!






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