荒木一郎『空に星があるように 小説 荒木一郎』(小学館、2022)

荒木一郎『空に星があるように 小説 荒木一郎』を読んでいたら、
「杉田敏」の名前が突然飛び出した。


(ブックデザイン 鈴木成一デザイン室)



杉田敏先生は、NHK「実践ビジネス英語」はじめ
通算33年ラジオ番組講師を務めた英語の達人。
二人は青山学院高等部の同級生で親友だったのだ。
一部を引用する。


  高校の親友と呼べる友達は和田ケンとか何人か居たが、
  中に女生徒から変わり者と思われている杉田敏がいた。
  (略)

  杉田敏は、ESSの部長をやる程の英語通で、
  普段の喋り方も日本語は鼻にかかって英語的な発音でしゃべるので、
  それが傍(はた)から見ると気障(きざ)に見えたり、
  鼻持ちならない雰囲気をかもしだしたりするのだ。
  (略)

  二年の冬休み前の期末テストの時に杉田が隣に座った。
  (略)

  テストの用紙をもらっても書き込むことがないので、
  適当に時間を見計らって白紙のまま出し教室から帯出するのが常だ。
  が、今日は、杉田が横にいるので、答案用紙を杉田にあずける事にした。
  (略)

  しばらくして、隙間無くぎっしりと答えが書き込まれた
  答案用紙が返って来た。
  しかし、英語慣れしてるから字がうまい。
  うまいだけじゃなく、特徴がはっきりしてる。
  特にWの字は、僕には書けないくらい芸術的である。

  「杉田、これじゃあ、おまえが書いたって一目で分かるよ。
  Wは、お前しか書けない字だろう、特徴あり過ぎだよ」
  小声で杉田に文句を言ったが、書き直す訳にも行かない。
  そのまま提出する事にした。
  (略)

  結果、僕たちは二人して停学になった。
  本当は、退学を船本(引用者注:担当英語教師の女性)は
  職員会議で主張したようだが、
  さすがにそこまではという声が多かったみたいだ。
  (略)

  「俺はね、普段から英語の教師にはうらまれてるんだよ。
  特に、船本は、俺を目の敵にしてたんだ」
  杉田は、学校の先生より英語が達者だし知識もある。
  それだけじゃなく、人物が変わってるから、
  教師が変な説明をすると突っ込む癖が出る。
  そのため何人かの教師が立場を失くし嫌な気持ちにさせられたかだ。
  (略)


杉田先生の高校時代のやんちゃぶりが楽しい。
「不良」で知られていた荒木と親密な交友があったのだ。


荒木一郎の文章は軽快で、
ユーモアとペーソスのスパイスが洒落ている。
526頁の大作をスピード感を落とすことなく
最後まで一気に読ませた。


本書は「小説」の体裁を採っているものの、
実名が次々飛び出し、スキャンダルな事件も淡々と書く。
読者までヒヤヒヤさせるのが荒木一郎の真骨頂なんだと知って
うれしくなった。


歌手としての荒木しか僕は知らなかったが、
作家としての荒木を知り、
次は役者としての荒木の作品も観たくなった。


    企画:新田博邦
    編集:向井徹、山内健太郎小学館





(青春自伝小説としてやんちゃぶりが痛快な藤田宜永島田雅彦の二冊。連読もいいと思う)