クリッピングから
朝日新聞2023年2月4日朝刊
折々のことば(鷲田清一) 2636
戦争を知る者が引退するか世を去った時に
次の戦争が始まる例が少なくない。
戦争が進行してゆく「過程」なら、
平和は揺らぎのある「状態」だと精神科医は言う。
それは、部屋を散らかすのと片づけるのの違いに似ていると。
後者の努力を着実に続けるには
戦争の記憶を次世代に語り継がねばならない。
が、彼らの関心を惹(ひ)くには
単純化や誇張を伴う物語が要る。
だから「戦記」は多いが「平和物語」はないのだと。
論考「戦争と平和 ある観察」から。
(斎藤環の中井著作解説全4回。力の籠もった内容を再現するテキスト)