改正入管法の意味(毎日新聞特別編集委員 山田孝男)

クリッピングから
毎日新聞2023年6月19日朝刊
コラム「風知草」(特別編集委員 山田孝男
改正入管法の意味


  怒号と混乱の採決は国会会期末の年中行事。
  今月9日に成立を見た改正入管法もその一つだった。
  (略)

  釈然としないのは報道である。
  ニュースは大変な悪法ができたという印象を与えたが、
  背景に目を凝らせばそんなことはない。

  ◇
  問題の最大の背景は、
  地球規模の難民、避難民(文字通り緊急避難する群れ)の大量発生である。
  シリアなどから100万人以上が殺到した欧州難民危機が2015年。
  以後も戦乱、災害が多発。越境する人々は増え続け、
  一部は日本にもやって来た。
  (略)

  ◇
  そこで日本へ漂着した難民、避難民である。
  日本は従来、難民申請者中に占める、
  実際に認定された人の割合が1%未満ーー
  と極端に少なく、特異な国と見られてきた。
  それが2年前から急に変わった。
  21年2月、ミャンマーで国軍によるクーデターが起き、
  8月、タリバンアフガニスタンを制圧。
  22年2月、ロシアのウクライナ侵略。
  22年中に3カ国から日本へ来た難民、避難民は1万3500人に達した。
  この数字は、1978年から05年までの28年間に
  日本が受け入れたインドシナ難民の総数(1万1319人)よりも多い。
  (略)


  入管法改正の目的は大きく分けて三つあった。
  ①保護対象を難民だけでなく避難民へ拡大 
  ②就労を目的とする難民申請制度の乱用抑制 
  ③収容の運営改善
  ーーである。
  ①と②は第6自出入国管理政策懇談会の提言(2014年)などに基づく。
  ③は21年3月、名古屋市の入管施設に収容中の
  スリランカ人女性が亡くなった事件を踏まえている。
  (略)


  難民、避難民を受け入れる条件が十分整っているとは言えまい。
  多くの外国人を迎え入れるなら、外務、法務両省だけでなく、
  厚生労働省(就労支援)や文部科学省(教育支援)の緊密な協力が欠かせない。
  2年前、今回とほぼ同じ内容の入管法改正案が国会に提出され、
  スリランカ人女性の事件で廃案に追い込まれた時、
  各省庁はバラバラだったと聞く。
  世界は激変している。
  大きな背景を見失い、改正入管法の評価を誤るべきではない。



文中のスリランカ人女性の名前は
ウィシュマ・サンダマリさん。
名古屋出入国在留管理局収容中の
2021年3月6日死亡。