小松由佳『人間の土地へ』(集英社インターナショナル、2020)

「高橋源一郎の飛ぶ教室」(NHKラジオ第1)、
「くにまるジャパン極」(文化放送)に著者本人が出演し興味を持った。
小松由佳『人間の土地へ』(集英社インターナショナル、2020)を読む。


人間の土地へ

人間の土地へ


小松の略歴はこうだ。


  フォトグラファー。
  1982年、秋田県生まれ。
  高校時代から登山に魅せられ、国内外の山に登る。
  2006年、世界第2位の高峰K2(8611m/パキスタン)に、
  日本人女性として初めて登頂(女性としては世界で8人目)。
  植村直己冒険賞受賞、秋田県民栄誉賞受章。


  草原や沙漠など自然と共に生きる人間の暮らしに惹かれ、
  旅をするなかで知り合ったシリア人男性と結婚。
  2012年からシリア内戦・難民をテーマに撮影を続ける。
  著書に『オリーブの丘へ続くシリアの小道で 
  ふるさとを失った難民たちの日々』(河出書房新社)がある。


「あとがき}から引用する。


  シリアは今後、どのような歴史をたどっていくのだろう。
  この内戦も、やがて繁栄と離散とを繰り返してきた
  この土地の歴史の一幕となるのだろうか。
  しかし、たとえ国が滅びようとも、
  人間の血は脈々と受け継がれていくだろう。


  この本は、シリアというある土地をめぐる物語。
  そして、私と夫の物語でもある。
  私はこの本を、今はまだ小さな二人の子供たち、
  サーメルとサラームに残したい。


  父と母がどこからやってきたのか、どのように出会い、
  どのような道のりを経て二人が生まれたのか。
  この世には、光ることのない多くの星があり、
  語られることのない多くの物語があること。
  その思いの全てを、この一冊に込めた。


  筆を執り始めてから、この本を書き上げるまでに
  実に三年の歳月がかかった。
  生活が困窮したり、次男サラームが生まれたり、
  取材に行ったりするたびに筆は止まり、シリア情勢は移ろった。
  しかし結果的に、時間がかかったことで内容がはるかに深まった。
  (略)

                           (p.250)



新聞報道等を読むだけでは想像がつかなかった
シリアの人々の暮らしが本書を読み、見えてくるようだった。
内戦(多くのシリア人は「革命」と呼ぶ)が破壊したものが何だったのか、
著者は気負いのない筆で迫っていく。