毎月1回、NHKテキスト「ラジオビジネス英語」連載
The Writers' Workshop(講師:佐藤昭弘先生)課題に取り組んでいる。
二か月ごとにテーマが設定され、
先生が選書し使用許可を得た本の一節を英文で書く。
問題文が発表されると出典を探して購入するか、
図書館から借りてくる。
引用された箇所だけでなく全体を眺めると、
より自然な英文にアプローチできるヒントが見つかるからだ。
4-5月は「パリ」についての文章。
4月号は山内マリコ『パリ 行ったことないの』
(集英社文庫、2017)から出題された。
表4(裏表紙)から引用する。
女性たちの憧れの街<パリ>。
ずっとパリに行くことを夢見ていながら、
臆病すぎて一度も海外に行ったことのなかったあゆこ。
35歳になった彼女はある映画に惹かれ、ついに渡航の決意をかためる。
年齢も境遇もさまざまな10人の女性たちが、
パリへの想いを通して結び付き、
やがて思わぬところで邂逅することにーー。
11の掌編が花束のように束ねられ、
特別な旅へと導かれる、大人のおとぎ話。
問題文には以下の文章が使われた。
八月にうっかりパリ旅行した人の失望ははかりしれない。
どのお店もバカンスに行ってお休みで、
まともに食事をとることさえ困難なのだから。
ショーウィンドウを指をくわえて見ているだけなんてことも起こりうるし、
バカンス中は医者だって休みだから、ことによっては文字どおり死活問題だ。
せっかくの夏休みを棒に振りかねない上、
いきおいパリが嫌いになってしまうかもしれない。
でも実際は、八月を除いてパリ旅行の計画を立てるのは難しい。
だから多くの日本人が、それを覚悟の上で八月のパリを訪れ、
ほのかに失望して帰るはめになる。
「それを解消するってわけかぁ、いいんじゃない?」
杉浦さんが、ブラッスリーで買ったバゲットサンドを頬張りながら、
ふむふむという調子で言った。
長かった冬がようやく終わり、日差しがぽかぽかとあたたかくなったころ、
居ても立ってもいられず、アパルトマンの中庭でランチしようと言ったのは、
社長である杉浦さんだ。
杉浦さんはダンガリーシャツとチノパン、
革のトップサイダーという出(い)で立(た)ちで、ベンチで足を組む。
髪も髭も白髪まじりだが、顔がつるりと若く大学生のような雰囲気。
フランスに来て、もうすぐ二十年が経つという。
(pp.134-135)
ご覧のように通りいっぺんの英作文課題とはまったく違う。
実際に出版された、さまざまな日本語の文章を
自然な英語で表現するチカラを養うのがこの講座の狙いだ。
取り組み始めた当初はどこから手を付けたらいいか、途方に暮れた。
やがて先生の解説、参加している仲間たちの英文を精読しながら
自分なりの取り組み方を工夫し実践できるようになった。
3年7か月、日々の暮らしの中で時間をやりくりして、
楽しみながらコツコツ取り組んでいる。
少しずつチカラがついてくる実感があるから続けられるのだと思う。
2014年12月、CCCメディアハウスより単行本として刊行。
初出: 第一部 『フィガロジャポン』2013年10月〜14年9月号
第二部 単行本刊行時に書き下ろし
(The Writers' Workshopの集大成が単行本になっている)