中西寛評:高坂正堯『歴史としての二十世紀』(新潮選書、2023)

クリッピングから
新潮社PR誌「波」2023年12月号(No.648)
「但し書き」の精神
高坂正堯『歴史としての二十世紀』(新潮新書
中西寛(なかにし・ひろし/京都大学教授)




  本書の著者高坂正堯
  1996年に亡くなってから27年になる。
  その著者の新刊が出るというのは
  出版界としても珍しいだろう。
  作家の未発見作品の出版といった場合でもなければ、
  まず起きないことではないか。
  それだけ高坂が日本人に敬愛されている証左と言えよう。
  本書は高坂が1990年1月から6月まで
  新潮社の主催で行った連続講演録である。
  (略)


  無礙自在の高坂の方法を敢えてまとめると、
  総合的な視点からの歴史哲学である。
  それは但し書きの精神と言ってもよいかも知れない。


  アダム・スミスが手放しの市場礼賛者ではなかったことに触れつつ、
  高坂は「独自の分野を切り拓いた思想家は、
  自分の頭で考え、辻褄の合わない矛盾点には
  但し書きをつけて話を進めます。
  ところが、後に続く学者たちは微妙なニュアンスを省き、
  無味乾燥な要約をします」(171ページ)と述べている。


  高坂の著作が魅力を失わないのは、
  高坂が自分の頭で考え、
  但し書きをつけることを厭わない思索家として
  稀有な存在だったからだろう。

                      (pp.74-75)



朝日新聞2023年12月2日朝刊掲載、新潮社書籍広告から)


佐藤優さんの推薦で読み、国際政治について勉強になった一冊)