佐藤優『よみがえる戦略的思考ーウクライナ戦争で見る「動的体系」』
(朝日新書、2022)を読む。
「第1章 国家間の関係を総合的に整理する」の一節、
「高坂正堯氏の慧眼」から引用する。
佐藤さんがしばしば引用し参照する
「国家間の関係における三つの体系」の出典」が紹介されている。
ウクライナ戦争を見るときも、
「価値の体系」「力の体系」「利益の体系」
の三要素で検討することが有効だ。
これについては、
京大教授をつとめた高坂正堯(こうさか まさたか)氏(1934-96年)が
現実主義(リアリズム)の立場から国際政治を分析している。
優れた知識人であった高坂氏の読み解きをまずは紹介しよう。
<各国家は力の体系であり、利益の体系であり、
そして価値の体系である。
したがって、国家間の関係は
この三つのレベルの関係がからみあった複雑な関係である。
国家間の平和の問題を困難なものとしているのは、
それがこの三つのレベルの複合物だということなのである。
しかし、昔から平和について論ずるとき、
人びとはその一つのレベルだけに目をそそいできた>
この観点からウクライナ戦争に対する日本の政策を見てみよう。
その前提として、ロシアによるウクライナ武力侵攻は、国際法違反であり、
ウクライナの国家主権と領土の一体性を毀損(きそん)するもので
許容できるものでないことは言うまでもない。
しかし、それゆえに
日本のインテリジェンスの分野で「政治化」が起きている。
情報を扱う人間やメディアに
”政治的・道義的に正しいウクライナを応援せねばならない”
という意識が働き過ぎているのだ。
(pp.17-18)
本書を読んで、
高坂氏の著書『国際政治ー恐怖と希望』を連読したくなった。
本書は「一冊の本」(朝日新聞出版)2022年8〜10月号
「混沌とした時代のはじまり」に大幅に加筆修正し、
「朝日新聞デジタル」2022年7月23日、20年12月11日の
インタビューを加えたものです。(p.190)
編集:中島美奈(朝日新聞出版)
協力:山田聡(マガジンハウス)