クリッピングから
毎日新聞2023年12月16日朝刊
「今週の本棚/2023 この3冊(上)
鹿島茂(仏文学者)
① パリ日記 特派員が見た現代史記録 1990-2021 第5巻
山口昌子著(藤原書店・5280円)
② 杉浦康平と写植の時代
阿部卓也著(慶應義塾大学出版会・4400円)
③ 蚊が歴史をつくった 世界史で暗躍する人類最大の敵
ティモシー・ワインガード著、大津洋子訳
(青土社・3960円)
①は全五巻の『パリ日記』の最終巻。
冷戦以後、産経新聞パリ支局長としてヨーロッパを取材してきた著者の
備忘録代わりの日記が1-4巻を成す。
最終巻は退任後にフリーランサーとして取材したものを
テロ、移民、EUなどのテーマ別に編集した本。
本書を参照せずにフランス現代史を語ることは不可能になった。
②はカタカナのレイアウトに苦労したデザイナー杉浦康平が
日本独自に発達した写植という複製技法と出会うことによって起こった
印刷革命をその終焉(しゅうえん)まで追跡した研究書。
ストーリーテリングの巧みさが際立つ。
③世界史はある意味、戦争の歴史だが、
その戦争の帰趨(きすう)を決定づけたのは
耐性をもたない侵入者に襲いかかった蚊だったという結論が衝撃的。
人類の未来も蚊との勝負にかかっている。