鹿島茂評:山口昌子『パリ日記Vーーオランド、マクロンの時代 2011.10-2021.5』(藤原書店、2023)

クリッピングから
毎日新聞2023年8月12日朝刊
「今週の本棚」 鹿島茂評(仏文学者)
『パリ日記Vーーオランド、マクロンの時代 2011.10-2021.5』
山口昌子著(藤原書店・5280円)



  国家・国民考える最適のたたき台


  二年前、本書の第I巻を本欄で取り上げたさい、
  著者が仏国防研究所財団理事長ポール・ビュイス将軍から
  「[ソ連の] 民族運動との対峙(たいじ)は続く。
  ウクライナ共和国が抵抗する時には事態はもっと深刻になる」
  という「予言」を引き出したのはすごいと記したが、
  しかし、そのときにはよもや数カ月後に
  ウクライナ戦争が勃発するとは思いもしなかった。


  以後、続巻が出るたびに熟読してきたが、
  最終巻である第V巻を読み終えたいま、
  二一世紀の未来予測に不可欠なドキュメントかもしれないと思えてきた。
  というのも、産経新聞パリ支局長退任後に
  フリーランサーの立場から取材してきた問題をテーマ別に編集したこの最終巻は
  移民、暴動、テロ、環境、EUなどを扱い、
  国家や国民について考える最適のたたき台となっているからだ。
  (略)


  今や二一世紀そのものの問題となりつつある
  「移民とテロ・暴動」という「フランス的問題」に対する最高の解説書。



評者が「フランス的問題」とカッコ付けで記しているのは、
それが日本的問題にもなり得るぞとの示唆だろうか。