高坂正堯『歴史としての二十世紀』(解題:細谷雄一)(新潮選書、2023)

高坂正堯『歴史としての二十世紀』(新潮選書、2023)を読む。



「解題ーー高坂正堯が我々に託したもの」
細谷雄一慶應義塾大学教授)から引用する。


  本書は、高坂正堯京都大学教授が
  1990年1月19日から同年6月15日まで、約六ヶ月間にわたり、
  新潮社が主催する新宿紀伊國屋ホールで行われた連続講演、
  「歴史としての二十世紀」の録音テープを文字に起こして、
  さらに読みやすくするための編集を加えて書籍化したものである。
  (略)


  本書のもととなる連続講演を行った1990年、高坂は56歳であった。
  前年の8月に海部俊樹政権が成立し、
  12月には戦後の国際政治の全体像を
  米ソ対立を軸に俯瞰する『現代の国際政治』を刊行している。


  さらに、この連続講演を終えた二ヶ月後に
  イラクによるクウェート侵略によって湾岸危機が勃発し、
  さらには10月にはドイツ統一が実現した。
  まさに、時代が大きく転換する中で、高坂はこの講演を行った。
  1989年のベルリンの壁崩壊と1991年のソ連の崩壊に挟まれるこの時期は、
  冷戦構造がまさに音を立てて崩れ落ちつつあり、
  戦後秩序が変容する時代であった。
  (略)


  冷戦終結によって劇的に国際政治の構造が変化する
  という見通しに対する懐疑論を提示した。
  すなわち、


    「正直に言って、
     私は、国境のない世界での相互依存というものは信じません。
     そういうものはあり得ないと私は考えております」


  そして次のように続ける。


    「そうではなくて、私は意外に、
     伝統的な外交関係に似たような国際経済関係になるのではないか
     という感じがするわけです」


  現在では、米中経済の対立や、デカップリング、
  グローバリズムの後退が盛んに語られているが、
  当時そのような懐疑論を示す知識人は日本ではきわめて稀であった。
  さらに、より率直にその後の見通しを示す。


    「今後の状況は戦後世界から冷戦を引いたものである。
     すばらしい世界だと考えるかたがおいでになるかもしれませんが、
     絶対にそうではない。
     冷戦ほどおおきなことが終わる時代には、
     全く新しいゲームが始まるんで、
     そのために知的な準備が必要であるということは、
     間違いないことだと思います」

                            (pp.217-228)