みんな木だつた どこか欠けてた(原田浩生)

クリッピングから
讀賣新聞2022年9月26日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週の好きな歌4首、抜き書きします。


  給食のパン入れ、ごみ箱、机、椅子
  みんな木だつたどこか欠けてた

          長野市 原田浩生


    【評】学校を思い出すとき、
       身近なものの素材というか、
       手ざわりを含めて思い出なのだなと感じる。
       シンプルでリズミカルな下の句が、
       子ども時代らしい素朴さを出している。


  ホスピスに来て二週間
  覚えたての住所を書きぬ問診票に

           豊中市 今西幹子


「覚えたて」でしんみりしました。


  私ならさしすせそその風呂そうじ
  ざじずぜぞぞと夫はこする

           船橋市 田中澄子


語感の鋭い方だなぁ、と思った。
濁音を使うことで
夫が不器用に風呂掃除する様子が見えてきた。


  また今日も落ち込みやすい山田には
  ちぎったパピコを片方あげる

         久留米市 一ノ瀬ケイ


パピコ」って何だろうと気になって
調べてみました。
これでした。



100分de名著「中川裕/知里幸恵『アイヌ神謡集』」

クリッピングから
NHKテキスト100分de名著2022年9月
中川裕「知里幸恵アイヌ神謡集』」を読む。



「はじめに 魅力あふれるアイヌの物語世界」から引用する。


  『アイヌ神謡集』は、
  知里幸恵(ちり ゆきえ)というアイヌの女性が
  1923年に出版したアイヌの物語集です。
  これはアイヌの手によって書かれた
  初めてのアイヌ語の本であるばかりでなく、
  今日まで最も多くの人に読まれてきたアイヌ文学書でもあります。


  1903年生まれの知里幸恵は、
  この本が刊行される前年の1922年、わずか19歳で亡くなりました。
  2022年の今年は、彼女の没後百年に当たります。
  (略)


  よく「なぜアイヌ語の勉強を始めたのですか?」
  「アイヌ語のどこに興味を持ったのですか?」と質問されます。
  正直に答えるならば、「たまたま」という答えになります。
  (略)


  ただし、今では「これが一番真実に近い」
  と思っている理由があります。
  私はかつて、平村よねさんというおばあさんに
  アイヌ語を教わっていました。


  ある時よねさんは
  「自分には他人の憑(つ)き神が見える」と語り出し、
  「お前が私のところに来るのは、お前が来たくて来るんじゃない。
  お前の憑き神がアイヌ語を覚えたくて、お前をここに来させるんだ。
  だから、私はお前ではなくお前の憑き神にアイヌ語を教えているんだ」
  と言ったのです。
  (略)


  しかし、2014年に連載が始まった
  漫画『ゴールデンカムイ』(野田サトル作)が、
  そんな思い雰囲気を一掃してくれました。
  この作品は、日露戦争直後の北海道を舞台に、
  帰還兵・杉元佐一(さいち)とアイヌの少女アシパがバディを組み、
  埋蔵金を探して旅をする冒険活劇です。


  明治末期のアイヌ社会やアイヌの人々を、
  これほど真っ向から物語の中心に組み込んだ作品は、
  ほかにありませんでした。
  2022年4月に連載が完結したこの漫画は数々の賞を受賞し、
  目の肥(こ)えた漫画読者からも絶大な支持を集めました。


  やはり憑き神に導かれたためでしょうか、
  私はこの作品の監修者として
  作品の完結まで見届ける幸運に恵まれました。
  (略)


  アイヌの世界観では、
  人間と人間以外のものが対等に交流しながら、
  ひとつの社会を形づくっています。
  その世界観を、人間以外の視点から、
  メロディに乗せながら語っていくのが神謡です。
  

  知里幸恵が亡くなってから百年が経過し、
  アイヌをめぐる状況も大きく変わりましたが、
  『アイヌ神謡集』の価値はまったく薄れていません。
  それどころか、知里幸恵が『アイヌ神謡集』に託した想いは、
  現代にようやく花開こうとしています。
  (略)

                        (pp.4-7)



亀山陽司『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書、2022)

佐藤優さんが週刊ダイヤモンド連載「知を磨く読書」で紹介、
興味を持った。
亀山陽司『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』
PHP新書、2022)を読む。



著者略歴を引用する。


  1980年生まれ。
  2004年、東京大学教養学部基礎科学科科学史・科学哲学コース卒業。
  2006年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了。
  外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館
  在ロシア日本大使館プーチン大統領訪日準備事務局など、
  約10年間ロシア外交に携わる。


  2020年に退職し、
  現在は林業のかたわら執筆活動に従事する。
  日本哲学会、日本現象学会会員。北海道在住。


「おわりに」から引用する。


  本書でも、国際政治における「正義」というものが
  いかに不確実なものであるかについて触れた。
  ウクライナ情勢に関する報道の多くは、
  ロシアによる攻撃でウクライナの無辜(むこ)の市民の命と生活が
  脅かされているという内容であり、
  ここから我々視聴者が受ける印象は、
  プーチン戦争犯罪人であり、
  人道的にロシアの行動は決して許されるものではない、
  制裁を強化し、ロシア政府を懲(こ)らしめるべきだ
  という道義的判断が大勢を占めていたと思われる。


  その印象を否定するつもりはまったくないが、
  そこでとどまっていては国際政治の議論は進まなくなってしまう。
  なぜならば、国際社会には絶対的な真理の法廷が存在しないからである。
  ここにはどこにも公正中立な第三者はいない。
  警察も裁判所もないのである。
  真実が明らかになり、
  公正な裁定(正義)が下されるなどということは
  まったく期待できない。


  ここにあるのは、当事者及び関係国、第三国の立場と主張、
  すなわちそれぞれの「国益という大義」のみである。
  つまり、国際政治の現実においては、真実と正義に代わって、
  それぞれの大義が裁定を下されないままに飛び交い、
  ぶつかり合っているのである。


  このような現場で一体何が可能なのか、
  はたと立ち止まって考え込んでしまうのだが、
  我々に与えられた道具は、良識、すなわちバランス感覚しかない。
  つまりこれが外交というものなのだが、
  このときに最も重要なのは、
  相手の立場や主張に耳を傾けるということである。
  そうでなければ決して外交交渉などは成功するはずがないからだ。
  (略)

                         (p.263-264)


本書の目次は以下の通り。


  はじめに 目が離せない国ロシア
  序章 ロシアの行動を理解するために
  第1章 ロシア帝国の4つの地政空間
  第2章 ロシア外交の方向性を変えた19世紀
  第3章 ヨーロッパの地政学〜世界大戦期のロシアとドイツ
  第4章 ロシアン・イデオロギー
  おわりに
  主な参考文献(和書)

    編集:前原真由美(PHP研究所
    編集協力:藤本佳奈(アップルシード・エージェンシー)

原田ひ香『三千円の使いかた』(中公文庫、2021/中央公論新社、2018)

ベストセラーになっていたのは知っていたけれど、
単行本、文庫を合わせて60万部を突破していたんだね。
地元の区立図書館サイトで調べると
単行本398件、文庫527件の予約が入っている。
原田ひ香『三千円の使いかた』(中公文庫、2021)を読む。



垣谷美雨(かきや みう、作家)の解説から引用する。


  私自身、子供たちが巣立ち、
  やっと自由の身になれたと肩の荷を下ろした頃、
  同じように身軽になったかつての同級生などから「旅行しようよ」と、
  頻繁(ひんぱん)に誘われた時期がありました。


  ですが、計画のほとんどは頓挫(とんざ)しました。
  たまたまかもしれませんが、
  私の友人たちは経済格差がとても大きいのです。
  例えば、都内にある高級住宅地の大地主の一人息子と結婚したリッチな女性もいれば、
  いわゆるダメンズと結婚して老後が不安といった女性たちもいて、
  振れ幅が大きすぎるのです。
  (略)


  そして、旅行の計画を話し合えば合うほど、
  人間関係がこじれていき、精神的にダメージを受けました。
  乗り物のクラスやホテルの等級や航空会社などへのこだわりが各人にあり、
  どれくらいの旅行費用なら高く感じるか、
  それとも安く感じるのかといった感覚の差も大きくて、
  妥協(だきょう)点が見つかりませんでした。


  学生時代は腹を割って何でも話せた親友であったはずなのに、
  お金の話となると互いにオブラートに包む言い方しかできず、
  結局はどうしても折り合わず、旅行を諦めざるを得ませんでした。
  (略)


  そういった経験から、友人たちとの付き合いは、
  互いの家に招いてケーキとコーヒーで何時間もおしゃべりしたり、
  レストランでランチするくらいがちょうどいい、
  それが互いのプライバシーを尊重した
  大人の付き合い方ではないかと(寂しい気もするけれど)
  思うようになったのでした。
  旅行会社の「おひとり様ツアー」が流行(はや)るはずです。
  (略)


  お金の使い方には、その人の生き方がギュッと詰まっています。
  サイフに入っている三千円をどう使うべきか、
  その追求は、幸福の追求と同義であることが骨身に染みます。
  (略)


佐藤優さんが連載「ベストセラーで読む日本の近現代史」で本書を取り上げている)

この夏も一気にやったぼくは夕立(畑 依裕)

クリッピングから
讀賣新聞2022年9月19日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  こつこつと終わらせたいがこの夏も
  一気にやったぼくは夕立

         大阪市 畑 依裕


    【評】夏休みの宿題だろう。
       今年こそはと思っても、なかなかコツコツとはいかないもの。
       そんな自分を否定するのではなく、
       勢いのある夕立にたとえた結句が新鮮だ。


「僕」じゃなく「ぼく」と表現していることに
書き写しているとき気づきました。


  脇差のように雨傘たずさえて
  東京行きの列に並べり

        大阪市 toron*


    【評】脇差(わきざし)だから、
       いざという時のための小振(こぶり)の傘だろう。
       東京へ行くときの緊張感や身構える感じが、
       この比喩でうまく捉えられた。


「いざ東京へ! 勝負っ!」
作者の秘めた心中が「脇差」の一語で伝わってきた。


   遠蛙エピローグのごと鳴き出して
   大雨洪水警報解除

         松江市 犬山純子


「遠蛙」って想像力の広がる言葉ですねぇ。
大雨がおさまった、雨上がりの広い風景が見えてくる。


安心安全、カエルくんディスタンス

雨上がりの湿気が
よほど気に入っているのでしょう。
カエルくん、同居人の庭に連日登場の巻。



耳腺から有毒物質を吹きつけられないように
適度な距離を保って近づきます。
安心安全、カエルくんディスタンス。

眼が怖いです、カエルくん

台風14号の影響で激しく雨の降る日が続きました。
ようやく上がって、同居人の庭を探索。
発見しました、カエルくん。



写真を撮っていると、
お腹を膨らましている様子です。


  体背面は一様に大小のいぼ状の隆起に覆われ、
  眼の後方には有毒物質を分泌する耳腺が発達する。
  そのため危険に出会うと、四肢を突っ張り頭を下にして
  耳腺を突き出す特有の自衛ポーズをとる。

    (ジャパンナレッジ:平凡社「世界大百科事典」)


(眼が怖いです、カエルくん)