岸博幸『ネット帝国主義と日本の敗北』(2010)


岸博幸『ネット帝国主義と日本の敗北ー搾取されるカネと文化』
(2010)を読む。
一読すると、グーグル、アップル、アマゾンなど
インターネットの世界をリードしてきた企業を
アメリカのネット帝国主義と結びつける趣旨かと思う。
しかし、読み込んでいくうちに
そう単純な結論でもなさそうだと思い直す。


ネット帝国主義と日本の敗北―搾取されるカネと文化 (幻冬舎新書)

ネット帝国主義と日本の敗北―搾取されるカネと文化 (幻冬舎新書)


フリーミアムの時代を活用する個人利用者の視点でなく、


  1. 日本という国家がインターネット時代に
    どんな戦略を持ち行動すべきか。国益に合う道はどこか。
  2. 社会に必須であるジャーナリズムと文化が
    プラットフォーム企業の利益独占により危機に陥っている。
    どう回避すべきか。


この二点の考察に耳を傾ける価値があると判断した。



岸は森総理のIT戦略本部で "eジャパン戦略"の原案を作成。
その後は、竹中総務大臣政務秘書官として
小泉内閣構造改革の立案・実行に関わる。
現在は、慶大大学院メディアデザイン研究科教授であり、
エイベックス・グループ・ホールディングス取締役である。
(以上、本書の著書プロフィールから抜粋)


著者は言わばインターネット国際戦争における
日本国の参謀を勤めた人である。
責任ある立場から「日本の敗北」について総括、提言した本として
僕は本書を読んだ。



確かにインターネットや情報端末を使いこなす個人としては
これまでになかった可能性が開かれているのが現代である。
人類コミュニケーション史上、
もっともスリリングな時代を私たちは生きている。


一方で、コンテンツ、ジャーナリズム、文化を創造する
プロフェッショナルの立場からは
個人としても組織としても存亡の危機に置かれているのがいまである。



個人として便利であるというだけで思考停止するのは確かに危険だ。
同時に社会、国家の視点から風景を眺め、分析して考える必要がある。
マクロの問題はどこかで誰かが考えているだろう
と他人事にしがちだ。目先の利益も見えづらい。
重要だが、つい他人事になるマクロの視点を
岸は環境問題にたとえて説明する。


ウェブ時代の昂揚に水を差すかのような印象の本書も、
俯瞰から時代を眺め、思考の材料にするなら有益な一冊になりうる。


(文中敬称略。政治家の肩書きは当時のものを使用)