クリスマス・イブ桜木町ツアー


世間はクリスマス・イブで街がなんとなくざわついている。
差し迫った仕事もなかったので休みを一日いただき、
前からいつか決行しようと思っていた桜木町ツアーを実行する。
副会長に尋ねると、付き合うと言う。



バックパックにタオル、手ぬぐい、文庫本。
旅のお供はナビに使うiPhoneと『東京飲み歩き手帳』。
後者は東京と銘打っているが、
著者の浜田信郎さんのベースキャンプが横浜だったので、
この地域もしっかりカバーしている。


東京飲み歩き手帳

東京飲み歩き手帳


我ら秘湯会のツアーであるからには、まずは一湯。
ここらで唯一残った銭湯「富の湯」をめざすが、
GPSが教えた場所には印刷工場があるばかり。
残業中の工員さんに尋ねたがらちが明かない。
銭湯に電話を入れてもつながらない。
さては、つぶれたか……と観念しはじめたところ、
副会長が買い物帰りのご婦人に尋ねている。
今夜の副会長は粘りがある。



幸い、ご婦人は「富の湯」の場所をご存知で
帰り道だからと秘湯会を案内してくださった。
まことに親切なご婦人に出会って助かった。
デジタルノートにその旨書くと約束したので、
あらためて御礼を言います。
ありがとうございました。


 (12/29後記:戸部町と西戸部町を僕が間違って
  ナビにインプットしたのが迷子の原因であった。
 「富の湯」は西戸部町にある)





湯上がり、昼食が控えめだったのでお腹はとっくに空いている。
このまま酒を飲んだら、あっという間に沈没するので、
まずは野毛小路、焼き餃子発祥の店「萬里」で軽く腹ごしらえ。
ご近所の人たちが気楽にやってくる店である。
ふと気づくとマフラーが見あたらなくて引き返すと、
隣りの「福田フライ」で飲んでいたおじさんが拾ってくれていた。
この土地のみなさんはよそ者に対して天使のように親切である。



二軒目は、ツアー最大の目玉である「武蔵屋」へ。
暖簾も看板も何も出ていない店であることは調査済みである。
「木村」と書かれた民家だが、確かにここである。
中から人の声がする。
引き戸を引いて、中に入ってみる。


おばあちゃん姉妹で火水金の三日だけやっていると聞いていたが、
男一人、女三人の若者たちが白髪のおばあちゃんと働いている。
「武蔵屋」はつまみが決まっている。
一杯目にタマネギ酢漬け、おから、タラ豆腐、
二杯目に納豆、三杯目に五種の漬け物盛り合わせ。
昭和21年に開業し、この五品で一年中、桜正宗を飲ませる。
ただし、ひとり三杯までがこの店のルール。
火水金の17時から21時までの営業。
この店に一度来てみたくて、金曜日に休みを取ったのだ。



「武蔵屋」で心地よくほろ酔いになったら、
大岡川沿い都橋商店街に向かう。
めざすは「日の出理容院」である。
床屋を居抜きで使いバーに仕立て8年前に開業。
ここも場所が分からない。
どうやらミステリー・ツアーになってきた。



あと少し行けば風俗街に突入する危ういエリアを何度も何度も徘徊し、
ようやく見つける。
この店は若い女性が経営していておつまみ類はいっさいなし。
椅子はあるけれど立って飲む客が多い。
常連らしきおじさんの作ったケーキを一切れいただく。
そう言えば、クリスマス・イブだった。


土曜日に仕事を持つ副会長をそろそろ連れて帰る時間である。
しかし、桜木町ツアーにすっかりはまった副会長は
「福田フライに寄りたい!」とのたまう。
「福田フライ」は昭和23年開業の立ち飲み串揚げ屋。
中高年男性たちの心と胃袋のオアシスである。
仕方ない。「串三本と酒一杯で帰るよ」と明言し、野毛小路に引き返す。



先ほどは店の外まで客であふれていたが、カウンターが空いている。
年季の入ったおばちゃんが注文を受けて揚げてくれる。
訳あって揚げ物を控える身ではあるが、この魔力には逆らいがたい。
串カツ、タマネギ、ポテト、玉子(うずら)。
ピリ辛ソースで食べる。
あったかいウーロンハイが冷えた身体に沁み込む。
副会長の目が幸せそうなトロンとした目に変わっていく。
危ない、そろそろ本当に引き揚げるタイミングだ。



帰路はグリーン券1,000円を奮発して
湘南新宿ラインの楽ちんシートで帰ることにする。
夜遊びしても我が町にはちゃんと11時30分には到着。
総予算もちゃんとおこづかいの範囲でおさまりました。
親切な案内人(浜田信郎さんの著書)と
親切な地元のみなさんのおかげで
秘湯会クリスマスイブ桜木町ツアーは成功裏に終了です。
(また、行こうっと)