ミュンヘンに本社を持つお得意さんの仕事を始める機会に
ドイツ語の勉強を再開した。30年ぶりのことである。
月曜から金曜まで毎日15分のラジオ講座。もうすぐ6年になる。
12歳のときに公立中学の授業と
NHKラジオ講座『基礎英語』で始めた英語と違って、
再開したドイツ語は50の手習い。
進歩はごくごくゆっくりである。
敬愛するアンドルー・ワイル医学博士によれば、
新しいOS(コンピュータの基本ソフトウェア)と新しい外国語の取得は
脳の活動を活性するために最適である。
普段と違う脳の領域を使って遊んでいるのだ。
まぁ、進歩がゆっくりでもそれはそれでいいとしよう。
応用編の小塩節(おしお たかし)先生は
僕の大好きな先生のひとり。
大変な博識であるし、なんたって声がいい。
ラジオ講座で耳から学ぶ愉しさが倍増するのだ。
小塩講座の題名は『ドイツ語うるわし〜心に残る珠玉の名言〜』。
上期は再放送だが、下期は新作である。
例えば2月のプログラムでは、
シンツィンゲル、ツェルター/ゲーテ、ルターと続き、
最終週は先生が選んだドイツ語の唄を取り上げる。
今月は『魔王』。ゲーテ作詞、モーツァルト作曲。
第一週のシンツィンゲル教授の名言は、
Sofort oder nie.
(今すぐに。そうでないと、いつまでも駄目。
即座に。さもないと、けっしてできぬ。)
(英語にすれば: Now or never.)
(NHK「まいにちドイツ語」2月号テキストブック
PP.54-55から引用)
小塩先生が自身のドイツ語スピーチについて助言をもらうために
シンツィンゲル教授を訪ねた折り、
教授が「手紙」に関しておっしゃった名言である。
つまり、手紙をもらったら、すぐに返事を書かなくては、
結局返事を出せなくなる、というのだ。
いまならさしづめメールだろう。
15分の番組では小塩先生が名言にまつわる背景、
シンツィンゲル教授の人となり、自分との交友などをお話になり、
ドイツ語の言葉づかいや文法の解説がそれに続く。
教授は弟子の山本明、南原実両氏と編集した
『現代独和辞典』(三修社)で広く知られている。
- 作者: ロベルトシンチンゲル,南原実,山本明
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言葉は文化の精髄である。
その国の言葉を学べば、
自分の母国語・文化に基づくものとは異なる思考、感覚を体験する。
取得の度合いに応じて、その味わいは少しずつだが深くなっていく。
僕が仕事をしているブランドを理解するにも、
遠回りのようだが、実は役に立っている。
なぜなら言語もブランドも
人間が時間をかけて創りあげてきたものであり、
人は言語なしには発想も創造もできない。
言語に縛られている存在であるからなのだ。
38年前に初めてドイツ語を教えてくださったドイツ女性講師が
そのとき断然推薦したのがシンツィンゲル教授の辞書だった。
僕が持っているのは1973年2月1日発行の第一版。定価1,300円。
1950年に教授が着想してから23年。
僕が大学に入る二ヶ月前に
ようやく完成したばかりのドイツ語辞書だったのだ。
教授の名前の日本語表記は
「ロベルト・シンチンゲル」となっている。
人の縁が歳月、土地を越えて結ばれていくのが面白い。
教授たちの苦心の作品である辞書を
また使わせていただくことにしよう。