佐藤優『私のマルクス』(2007)


その強靱な知的体力の基盤がどうやって築かれたか、
この本を読んでいると想像が湧いてくる。
佐藤優『私のマルクス』を読む。
佐藤は生涯に三度マルクスに出会ったと告白する。
本書は一度目、二度目のマルクスとの出会いの物語を軸に
2006年から07年にかけて『文學界』に連載された。


私のマルクス

私のマルクス


県立浦和高校に通っていた夏休み、
佐藤はソ連、東欧の旅に出かける。
道中ブタペシュトに住むペンフレンド、
フェレンス君を訪ねるのも旅の目的のひとつだった。
無神論国家であってもフェレンス君の故国ハンガリー
ポーランドでもまるで空気、人びとの生活が違う。
当然マルクスの占める位置も微妙に異なる。



 (カール・マルクス Wikipediaより引用)


高校生だった佐藤はこの旅でそうした現実を
ひとつひとつ皮膚体験で学ぶ。
金はなくとも豊富に時間を持てる
青春時代にしか不可能な、貴重な回り道の時間だ。
まさかその後自分が外交官になりソ連に赴任し、
国家が崩壊する1991年を目撃するとは夢にも思わなかった。
本書は歴史と個人が交差する偶然と必然の物語だ。


詳細な出来事、固有名詞まで記憶する方法は
外務省でインテリジェンスの仕事をしているうちに身に付けた。
10年以上、日本でトップランクの質量の著作活動をしても
源泉が枯れない秘密のひとつはこの記憶力にあると僕は推察する。
同志社大学時代を記した青春の書『同志社大学神学部』を併読すれば、
佐藤の知的源泉の入り口まで本人が道案内してくれる。
本書巻末4頁の「書名リスト」が読了後の自習に役立つ。


資本論 (1) (国民文庫 (25))

資本論 (1) (国民文庫 (25))


(文中敬称略)