毎日新聞「今週の本棚」20年名作選1992-2011(2012)


本の本に耽溺するようになると
本好きも一人前と認めてもらえるらしい。
『愉快な本と立派な本』『怖い本と楽しい本』『分厚い本と熱い本』、
三冊借りてきて、拾い読みしている。
1992年から2011年まで毎日新聞に掲載された
「今週の本棚」20年名作選だ。



発案者は当時編集局長(のち社長)斎藤明と
編者を務めた丸谷才一
どこか陰鬱で権威主義的だった新聞書評をガラリと変えるために
粕谷一希編集長「東京人」誌で常に辛口の意見を述べていた丸谷に
全面的に任せる決断を斎藤はした。



丸谷が「この人なら」と認めたレビュアーに入れ替えていき、
月二回の編集会議を止め、
「竹橋通信」で新刊をレビュアーに知らせ、
立候補制で書評を書いてもらうルールにした。
浮いた会議費用で年一回盛大な打ち上げをし、
二次会に銀座のバーを付けたのも
いかにも丸谷らしい洒落たアイデアだ。



以来、毎日の「今週の本棚」は
朝日などライバル誌編集からも着目された。
結果として新聞書評欄が
読者のために改善されたのが最大の成果だと丸谷は胸を張る。



丸谷の仕事を池澤夏樹が引き継ぎ、
20年分の名作集大成となった(装丁・イラストレーション/和田誠)。
本好きがこの三巻本を面白く読まないはずがなかろう。
池澤はこの本をまとめる過程で、
レビュアーたちの書評を読み、あれも読みたい、これも読みたいと
多くの本を購入して散財したと(たぶん)苦笑いしていた。
読者にもご用心、と助言を忘れない。



  (こんがり焼いたマフィンにバター、南高梅、紫蘇。
  意外な組み合わせのようだが旨い。大王食堂新開発商品)


読者を喜ばせる企画が生まれるときは、
その舞台裏に決断する人、意気に感じて引き受ける人、
成果をまとめて世に残す人がいる。
舞台裏の、つつましやかなプロフェッショナル全員に拍手を送る。
こうした名著の借り手を待って大切に保管し、
ふと存在に気づいた僕たちに貸し出してくれる図書館スタッフにも
同じ分量の拍手を送る。


(文中敬称略)