吉村萬壱『ボラード病』(文藝春秋、2014)


病に罹患した主人公が全体を物語っていたことが
ラストシーンで明らかにされる。
この構造時代は目新しいものではない。
小学生のときに観た怪奇SF映画マタンゴ」(1963)も
この構造だった(怖かったなぁ〜)。
文章、特に会話の細部が圧倒的によくて
最後までグイグイ小説世界に引っ張られてしまう。
吉村萬壱『ボラード病』(文藝春秋、2014)を読む。


ボラード病

ボラード病


主人公の小学五年生・大栗恭子とその母。
どこにでもありそうな家庭の設定にどこか狂気じみた気配がある。
舞台は3.11以降の被災地であることを暗示している。
物語が進むにつれ、正常と異常の境目がぼやけてくる。
なにが病気で、なにが健康か。
タイトルになっているボラード(bollard)を
辞書でひくとこう書いてある。


   船が岸壁に停泊するときに,
   そのもやい綱を取るため
   陸上に備え付ける低い鉄柱。



Wikipediaより引用)


ボラードを失うと、人間は漂流し始めるのか。
それとも、漂流を回避したい人間が
「溺れる者、藁をもつかむ」ように
妄想をもボラードと信じてしまうのか。
サラッと読めるが、読後がしみじみ怖い。


ボラード病 (文春文庫)

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