見境のない威嚇は、不要な危険を生み出す


スクラップブックから。
朝日新聞2017年11月29日朝刊
元米国防長官 ウィリアム・ペリーさん
安保考・どうする北朝鮮問題



編集委員・佐藤武嗣、宮地ゆうが
北朝鮮問題のキーパーソンに
イムリーなインタビューを試みた。
宮地は作家・佐藤優さんが注目している女性記者。



   日本の指導者は、
   外交の失敗がもたらす帰結を理解する必要があります。
   外交の不在や見境のない発言は、
   戦争に、非常に壊滅的な核戦争に突入する条件を
   醸成してしまいます。
   実行可能な軍事オプションがあるなら、
   私もそれを薦めるかもしれませんが、
   (実際のところ)そんな解決策はないのです。


   私が驚くのは、実に多くの人が
   戦争がもたらす甚大な結果に目を向けていないことです。
   戦争は日本にも波及し、核(戦争)になれば、
   その被害は、(韓国にとって)朝鮮戦争の10倍に、
   (日本にとって)第2次世界大戦での犠牲者数に匹敵する
   大きさになります。


   我々は外交を真剣に検討すべきです。
   私は安倍首相に、トランプ大統領との議論で、
   こうしたことを促すことを期待しています。



   William Perry 1927年生まれ。
   数学者で、62年のキューバ危機には技術者として対処。
   幕末に来航したペリー提督の末裔(まつえい)でもある。


ペリーさんの発言を読んでいると、
弱体化を指摘されつつも米国ではエリート層が機能していると感じる。
90歳でこうした分析ができるのは卓越した能力だ。
トランプ政権、安倍政権に対してもただ批判するのでなく、
現実的な意見を述べているから信頼できる。



以下、「佐藤優直伝・インテリジェンスの教室」vol122
講談社現代ビジネス/イズメディアモール発行)
第4部 文化放送「くにまるジャパン極(きわみ)」発言録より抜粋する。
番組パーソナリティ・野村邦丸
レギュラーコメンテーター・佐藤優の対話から。


   邦丸: 今朝の朝日新聞デジタルの記事なんですが、
   90年代半ば、アメリカ合衆国民主党政権
   ビル・クリントン大統領の時に、
   国防長官をお務めだったペリーさんという、
   今90歳におなりになります、
   国防長官でありながら
   数学者でもあるという方なんですが、
   この方がアメリカのサンフランシスコの自宅で
   朝日新聞のインタビューを受けているんです。


   94年というのは、これはけっこう報道されていますよね。
   ご存じの方が多いと思いますが、
   アメリカのクリントン政権
   北朝鮮は当時は金日成(キムイルソン)主席の
   最後のころですね、


   だから今の金正恩(キムジョンウン)さんの
   おじいちゃんの時、
   北朝鮮では原子力発電所をつくって、
   そこで出たプルトニウムを兵器に転換しようとしていた。
   これをなんとか抑えないといけない、


   核拡散防止条約から北朝鮮脱退というなかで、
   これはひょっとするとアメリカと北朝鮮
   特にアメリカは巡航ミサイル
   北朝鮮に攻撃をするというゴーサインが出ると。


   その数分前に、当時特使として派遣されていた
   元大統領のカーターさんが、
   北朝鮮との合意ができたということで、
   ほんの数分間で巡航ミサイル発射を見送った。
   その時にずっと中枢にいたのがペリーさんなんですが、
   このペリーさんがおっしゃっているのが、
   あの当時より今のほうが事態はもっと深刻であると。


   佐藤: そのとおりですね。


   邦丸: 何か事があった時の被害というものを
   もっと深刻に受け止めなくてはいけないよと、
   警鐘を鳴らしていますね。



(朝日記事・ペリーさんインタビュー、最後の部分より)


   佐藤: 私はペリーさんの言うことに全面的に賛成です。
   このインタビューを取っている
   宮地ゆうさんという女性記者の名前が入っていますが、
   彼女の書く記事に私は常に注目しているんです。


   タイミングがいいところに非常に正確な記事を書く記者で、
   シリコンバレーの取材でも
   非常にしっかりしたものを書いているんですけれど、
   彼女が勝負を賭けてきたなと感じますよね。
   記者生命を賭けて、今ここのなかにおいて
   ペリーさんから話を取って、
   これをこのタイミングでやって、
   戦争を阻止したいんだという
   記者の意気込みというものを行間から感じますよね。


   邦丸: そうですよね。


こうして情報をつなげて取っていくと、
問題を立体的に捉え、解読していく手掛かりができる。
佐藤優さん、池上彰さんに学んだ手法だ。
確かに役に立つことを実感する。


(文中一部敬称略)