育児のこぼれ球を、誰かがすかさず拾う


スクラップブックから
朝日新聞2018年5月1日朝刊
松村圭一郎のフィールド手帳
家事も育児も 芸術的な連係



   エチオピアの村の朝。
   農家の女性たちがコーヒー豆の選別作業をしていた。
   親戚の女性も手伝いに加わる。
   生後8ヶ月の娘のいる母親が忙しそうに動き回る。
   赤ん坊は居間にぽつんと置かれたまま。


   年の離れた兄弟が赤ん坊と戯れていたが、
   やがて庭で遊びだす。
   すると祖母が赤ん坊の横に座って話しかける。
   外では近所の子どもが集まりサッカーがはじまる。


   祖母が出ていくと、
   今度は隣の家の女性が赤ん坊を抱っこする。
   母親はたまにお乳を与えに戻るだけ。
   (略)


   人が入れかわり立ちかわり出入りし、
   家事も育児も居合わせた人ができることをやる。
   しかも世間話に花を咲かせ、楽しみついでに。
   家族の垣根が低いので負担を分かち合えるのだ。


   私もたまに赤ん坊をあやしつつ、
   彼らにはあたりまえの日常でしかない
   芸術的連係プレーを
   一日飽きずに眺めていた。
               (文化人類学者)



生活そのものが
サッカーの芸術的連係プレーのような
エチオピアの朝が目に浮かんできた。
豊かさってなんだろう、と考えてしまう。


日常の光景を描写する松村の文章も動的で軽快だ。
フィールドワークを重んじる
文化人類学者の目と文体を感じた。


所有と分配の人類学―エチオピア農村社会の土地と富をめぐる力学

所有と分配の人類学―エチオピア農村社会の土地と富をめぐる力学

うしろめたさの人類学

うしろめたさの人類学

(文中敬称略)