村上篤直『評伝 小室直樹(下)』(ミネルヴァ書房、2018)

先日読んだ『数学を使わない数学の講義』
予想以上に明晰で面白かった。
村上篤直『評伝 小室直樹(下)現実はやがて私に追いつくであろう』
ミネルヴァ書房、2018)を連読する。



生前の小室に一度も会うことのなかった村上が
残された資料を丹念に読み込み、存命の関係者に辛抱強く取材した。
重厚な評伝の下巻である。
「奇人学者」程度の認識しかなかった僕は
この一冊で小室博士の学問、人柄に一気に魅せられた。


小室の弟子であった橋爪大三郎編著
小室直樹の世界—社会科学の復興めざして』(ミネルヴァ書房、2013)巻末に
「小室直樹文献目録」小室直樹博士略年譜」を編んだのが村上だった。



「あとがきにかえて」に慎ましく
本書執筆の動機を書いている。
筆者がアカデミアの世界から脱落した直後のことであった。


   共同体(ゲマインデ)から、何の準備もなく飛び出た筆者は、
   連帯(ソリダリテ)を失いアノミーに陥ってしまった。
   しかも、行動によってこれまで信じてきた信念体系を
   否定してしまったのである。


   さらに、自分だけが取り残されてしまったという気持ちとともに、
   裏切ったという気持ちに苛(さいな)まれた。
   生き地獄が始まった。
                          (p.674)


村上を救ったのは小室の著作群だった。
田中角栄の呪い』に始まり、
小室の書いたものをすべて集めはじめた。
その集大成がウェブサイト『小室直樹文献目録』となり、
公開することによって、一般からも広く小室の文献情報を募った。


田中角栄の呪い―

田中角栄の呪い―"角栄"を殺すと、日本が死ぬ (カッパ・ビジネス)


   筆者は、生前の小室直樹に会ったことがない。
   それでも、今、運命的に導かれ、
   小室直樹と同時代に生きられたこと、
   その生き様、学問を知ることができたことに感謝している。


   最後に、生前にお礼をいえなかった小室先生にひとこと。
   命を救ってくださって、どうもありがとうございます。
   小室先生は私の命の恩人です。
                        (p.677)



本書は佐藤優さんに
同志社講座宗教改革とは何か?」の講義(第9回)で教えてもらった。
その後、メルマガ「佐藤優直伝・インテリジェンスの教室」
佐藤さんが本書を推薦する理由を読んだ。


本書を読み進めながら、
小室が残した膨大な著作を公立図書館、古書店サイトで探し、連読し始めた。
読了後に、その感想を書きたい。


数学を使わない数学の講義 (WAC BUNKO 272)

数学を使わない数学の講義 (WAC BUNKO 272)