2人の偉大な作家に出会えて、わたしは幸運ね(テス・ギャラガー)

スクラップブックから
朝日新聞2019年4月24日朝刊
文芸時評 作家 小野正嗣
「テキストの外」にある要因


   3月末にアメリカのオレゴン州ポートランドで開催された
   AWPの年次大会に参加した。
   AWP(引用者注:Association of Writers & Writing Programs)とは、
   「作家および創作プログラムの学会」で、
   多くの作家と作家志望の学生が参加し、
   4日にわたって毎日200以上のパネル(討議会)が行われた。
   (略)


九年前の祈り (講談社文庫)

九年前の祈り (講談社文庫)


   僕は、辛島氏(引用者注:辛島ディヴィッド)と
   英語で短篇(たんぺん)小説を発表する作家・吉田恭子氏とともに、
   「ムラカミはアメリカの作家か?」というパネルに参加した。


Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち

Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち

Disorientalism

Disorientalism


   ガラガラのパネルも多い中、僕たちのパネルは大盛況だった。
   僕自身は、アメリカでは知られていない
   「翻訳者としてのハルキ」の日本文学への功績を強調した。
   村上訳がなければ、レイモンド・カーヴァー
   日本でこれほど読まれることはなかっただろう、と。
   会場には、知的で優しい笑みが印象的な小柄な白髪の老婦人がいた。


愛について語るときに我々の語ること (村上春樹翻訳ライブラリー)

愛について語るときに我々の語ること (村上春樹翻訳ライブラリー)


   パネルのあと辛島氏と僕は、
   亡きカーヴァーの妻である詩人テス・ギャラガーの朗読会に行った。
   500人は下らない聴衆の前で詩を朗読していのは、
   あの老婦人だった!


ふくろう女の美容室 (新潮クレスト・ブックス)

ふくろう女の美容室 (新潮クレスト・ブックス)


   朗読会後、彼女と話す機会があった。
   あの優しい笑みを満面に浮かべて彼女は言った。
   「2人の偉大な作家に出会えて、わたしは幸運ね」


自分も名の知れた詩人であるだろうに
こんな台詞をサラリ口にできるなんて素敵な女性だな。