クリッピングから
讀賣新聞2020年7月20日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週、好きだった3首。
「毎日が楽しいです」って書いている
小学生のあたしに会いたい
【評】あの頃に戻りたい、というのではなく
「会いたい」というところがユニークだ。
励まされたい感覚なのではないかと思う。
「小学生のあたし」は自分なのに他人。
でも、他人ではなく確かに自分。
なんで毎日がそんなに楽しかったのか、
大人になって分からなくなってしまった喪失感。
だから、会ってみたくなるのかな。
籠り居のひと日うつうつ百密の
あぢさゐの庭暮れなづむなり
下妻市 神部貢
「密」の文字がすっかり悪者のようになってしまいました。
庭のあぢさゐは「百密」で自身の存在感を
無言で、けれども堂々と示しています。
満場の観客のごとサルビアが
電車見送る位置に咲きおり
【評】電車内から見て楽しめる位置に、
たぶん傾斜もつけて植えられているのだろう。
サルビアを、スタジアムや大劇場の観客に見立てたところが楽しい。
真っ赤な色からは、熱気や歓声までもが伝わってきそうだ。
歌を読み、評を読み、また歌を読む。
その行為を何度か繰り返すうちに
この歌の味わいが沁みてくるようになりました。
駅で「私」がサルビアの存在に気づくこと。
そのサルビアをスタジアム、劇場の観客に見立て、
コロナ禍に生きる僕たちの暮らしを表現しようと試みていること。
その見立てを助けたであろう「傾斜」にまで
評者の想像が至っていること。