「毎日が楽しいです」って書いている(一条智美)

クリッピングから
讀賣新聞2020年7月20日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週、好きだった3首。


 「毎日が楽しいです」って書いている
  小学生のあたしに会いたい

          堺市 一条智美


     【評】あの頃に戻りたい、というのではなく
       「会いたい」というところがユニークだ。
        励まされたい感覚なのではないかと思う。


「小学生のあたし」は自分なのに他人。
でも、他人ではなく確かに自分。
なんで毎日がそんなに楽しかったのか、
大人になって分からなくなってしまった喪失感。
だから、会ってみたくなるのかな。


f:id:yukionakayama:20200726103607j:plain:w400


  籠り居のひと日うつうつ百密の
  あぢさゐの庭暮れなづむなり

           下妻市 神部貢


「密」の文字がすっかり悪者のようになってしまいました。
庭のあぢさゐは「百密」で自身の存在感を
無言で、けれども堂々と示しています。



  満場の観客のごとサルビア
  電車見送る位置に咲きおり

          鹿児島市 地原陽子


     【評】電車内から見て楽しめる位置に、
        たぶん傾斜もつけて植えられているのだろう。
        サルビアを、スタジアムや大劇場の観客に見立てたところが楽しい。
        真っ赤な色からは、熱気や歓声までもが伝わってきそうだ。


歌を読み、評を読み、また歌を読む。
その行為を何度か繰り返すうちに
この歌の味わいが沁みてくるようになりました。


駅で「私」がサルビアの存在に気づくこと。
そのサルビアをスタジアム、劇場の観客に見立て、
コロナ禍に生きる僕たちの暮らしを表現しようと試みていること。
その見立てを助けたであろう「傾斜」にまで
評者の想像が至っていること。


f:id:yukionakayama:20200726134927p:plain