金色のちひさき鳥のかたちして(与謝野晶子)

クリッピングから
朝日新聞2020年11月29日朝刊
読者投稿欄「ひととき」 一番好きな短歌
東京都府中市 平出恭子 主婦 75歳


祖母から孫娘へ、
一首の短歌が旅する話を読みました。
全文を引用します。


  7年ほど前の、孫娘が2歳になる少し前のこと。
  娘が2人目の子どもを出産するため、我が家に里帰りした。
  それからしばらくは、私と孫の散歩が日課となり、
  2人で娘が通った小学校へ続く道を何度も歩いた。


  小学校の校庭が見える道の脇には、1本のイチョウの大木。
  ちょうど黄色い葉がハラハラと舞い落ちている時期だった。
  ふと「金色(こんじき)のちひさき鳥のかたちして
  銀杏(いちょう)ちるなり夕日の岡に」と、
  高校時代に覚えた与謝野晶子の短歌が口に出た。


  そこを通るたびに私がその短歌を口にするので、
  孫も「ゆうひのおか」という言葉の響きが気に入ったのか、
  落ち葉の名前だと勘違いしたのか、
  「ゆうひのおか、いっぱいいるね」と言葉を追いかけて遊んでいた。


  先日、小学4年生になった孫の家に遊びに行くと、
  ちょうど学校で短歌と俳句を習っているとのこと。
  孫が国語の教科書を開いて「金色のちいさき鳥の……」と読み上げ、
  「私ね、この短歌が一番好きなの。ずっと前から知っていた気がする」
  と話したので驚かされた。


  私が7年前の話をしても、全く覚えていないという。
  それでもこの胸には、言葉では表せない良い気持ちが広がっている。


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2歳少し前の記憶が、
小学校4年生になったお孫さんのどこかに歌と共に残っている。
その記憶の元になる体験を7年前に一緒にできた平出さん。
「言葉では表せない良い気持ち」、
僕も共有させてもらいました。


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恋衣

恋衣

  • 作者:与謝野 晶子
  • 発売日: 2016/07/20
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
(この歌は『恋衣』に収録されています)