これは夜ではない何かです(酒井裕佳理)

クリッピングから
讀賣新聞2020年12月15日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週も好きな歌3首、抜き書きします。


  ほんとうに明けない夜がないのなら
  これは夜ではない何かです

         大阪市 酒井裕佳理


     【評】「明けない夜はない」という定番の励まし。
        それに対する渾身(こんしん)の切り返しにハッとさせられた。
        本人にしかわからない悩み苦しみの深さとともに、
        安易な慰めをやんわり拒否する心が伝わってくる。


  最後から逆算しての今日である
  あなたのことをいつもより見る

          堺市 一條智美


     【評】当たり前の毎日でも、期限つきとなった瞬間から、
        時間の流れや大切さが変化する。
        逆算という正直な表現がチャーミングだ。


「最後」は死の隠喩でしょうか。
若者だったら「卒業」かもしれませんね。


  「アラララシャース!」三回聞いて
  「アルコール消毒お願いします」と分かる

                東京都 三神玲子


     【評】何度もお願いして歌のようになり、
        疲れてもいるのだろう。
        インパクトのある初句が、
        作者と同じ戸惑いを味わわせてくれる。


呪文のような言葉から始まる歌がとても新鮮。
答えを聞いて苦笑いしました。
僕もラジオ番組でDJと女子アナの機関銃のような会話が
うまく聞き取れないことがしょっちゅうです。


もう1首、追加します。


  故郷っていいな志村の像が立つ
  我は本籍しずかに移す

      鹿児島市 松本清


コロナで亡くなった志村けんさん。
多くの人たちに愛されていたんだなぁと気づきます。
結句の「しずかに」に共感しました。


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未来のサイズ

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  • 作者:俵 万智
  • 発売日: 2020/10/02
  • メディア: 単行本