エプロンの蝶々結びを終えた時(松本悦子)

クリッピングから
讀賣新聞2021年3月16日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


さて今週は、どんな歌に出逢えるでしょう。
万智先生が評を書いた3首はどれも好きでしたが、
それ以外に気に入った3首、抜き書きします。


  棲み慣れた巣箱のような駅前の
  ファミレスついに更地となりぬ

          佐野市 中野忠


いったん更地になってしまうと
以前そこに何があったか、
人の記憶はだんだん薄れていきます。
我が家の近所にもそんな場所がいくつかあります。


  エプロンの蝶々結びを終えた時
  ゆっくり動くわたしの一日

          奈良県 松本悦子


静かな、静かな、
一日を始動させる自分だけの仕草。
そんな瞬間を歌に詠むことができると知りました。
エプロンは松本さんにとって「戦闘服」なんですね。


  付き添いの我の布団を掛け直す
  癌を病んでも母は母なり

           角田市 伊藤久美子


子どものことをいつも自分より優先してきた
お母さまのごく自然な振る舞いが伝わってきました。


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