クリッピングから
讀賣新聞2021年3月22日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週も好きな歌3首、抜き書きします。
祖父の目で見ていた空を葬って
眼鏡ケースはちいさき棺
【評】祖父が亡くなったことで、
祖父とともに空を見ていた眼鏡も、
その生涯を終えたのである。
モノとしては変わらなくても、
それはすでに亡骸(なきがら)だという認識が、せつない。
下の句の見立てが胸に染みる。
亡くなった祖父を思い、
その祖父が使っていた眼鏡を思い、
その眼鏡ケースを棺に見立てる。
たった三十一文字で、これだけ視点移動して
重層的な物語を語ることができるのですね。
目をみない宅配の人それでいい
少しさみしいお辞儀をし合う
横浜市 友常甘酢
【評】特別な会話は必要ない。
互いが役割を果たすだけ。
それでも、人と人である。
しみじみとした下の句が、他生の縁を感じさせる。
「それでいい」の五文字が入ることで
僕はホッとしました。
お互い目をみないことが
コミュニケーションの拒絶ではないと伝わってきます。
いつの日かわれがゐたよな景なれば
車を停めて川おとを聴く
デジャヴのような時間が静かに過ぎてゆくのが
とても心地良く感じられる歌でした。
好きだなあ。