パン生地すこし長めにねかす(玖嶋さくら)

クリッピングから
讀賣新聞2021年8月9日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週も好きな歌3首、抜き書きします。


  後輩に押し付けられた残業で
  最上級の夜景を作る

      東京都 吉村おもち


     【評】上司でも先輩でもなく
        「後輩」というところが切ない。
        だからこそ、悔しさを逆手にとる。
        景色の感じ方は気持ちの持ち方だ。


  気持ちにはたてなおすための時がいる
  パン生地すこし長めにねかす

        埼玉県 玖嶋さくら


ピッチャーが間合いを取ろうと
ロジンバッグを手にする光景が思い浮かびました。
「怒るな、怒るな、怒るな」と自分に言い聞かせて。


  虫さされの肘を指しおり審判に
  デッドボールを主張するごと

          大阪市 原拓


     【評】子どもが虫さされを訴えているのだろう。
        心配してほしくて、
        見て見て!と必死でアピールしているのだ。
        下の句のユニークな比喩が、
        その様子を生き生きと伝えてくれる。


子どもの腕の姿勢、口元のとんがり具合まで
目に浮かぶようでした。
親子で過ごす、夏休みの匂いがしてますね。


(下線部クリックで同じ作者の別の歌が読めます)


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