クリッピングから
讀賣新聞2021年9月27日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週も好きな歌3首、抜き書きします。
アディショナルタイムのような一年を
笑みつつ父はわれにくれたり
【評】いつ終了のホイッスルが吹かれてもおかしくない
アディショナルタイム。
そのように、死を意識しながらの
一年だったのだろう。
せつなくも充実した時間だったことが
「くれたり」から伝わってくる。
「人流」とぼくらはまるで川をなす
飛沫の粒のように呼ばれて
【評】物流からの連想だろうが、
違和感のある新語である。
その違和感の本質を言い当てた比喩だ。
飛沫(ひまつ)がコロナの縁語のように響く。
窓際でコーヒーミルのハンドルに
あなたが風をからめて回す
「愛」とか「恋」とか「好き」という言葉を使っていないのに
そうした感情が伝わってくるのが素敵。
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