「だったねえ」「だっただった」と父のこと(岩元秀人)

クリッピングから
讀賣新聞2021年5月31日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週も好きな歌4首、抜き書きします。


  「だったねえ」「だっただった」と父のこと
  言うはつ夏の食卓明るし

            垂水市 岩元秀人


     【評】生前の父の癖や振る舞いを、思い出す家族。
        一人の記憶ではなく、家族の相槌(あいづち)の中に
        蘇(よみがえ)るところがいい。
        具体的な内容よりも、懐かしむこと自体の尊さを、
        上の句の語尾の切り取りが、余すところなく伝えて見事。


会話で始まる上の句、
好きだなあ。


  ループする話の中で何度でも
  祖母のなくした財布を探す

          神戸市 若杉有紀


認知症の祖母の話相手は楽ではないと思うけれど、
どこまでも付き合う姿勢に作者の優しさを感じました。


  竜巻が決めることだよたつまくか
  たつまかないかちょいたつまくか

         札幌市 岡本雄矢


言葉遊びが面白い!


  悠久の時の流れを賽の目
  刻んで人を操る暦

       横浜市 友常甘酢


人間は時を賽の目に刻むことで、
悠久さに直接向き合うことを回避しているのかもしれませんね。
有限の身で無限には向き合えないと知って。
(下線部クリックで、同じ作者の別の作品が読めます)


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