澤田大樹『ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける』(亜紀書房、2021)

この本のできるプロセスを、
TBSラジオ「アシタノカレッジ」
武田砂鉄(パーソナリティ)、著者と共有してきた。
出版に漕ぎ着けたとき、なんとなく他人事とも思えなかった。
澤田大樹『ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける』
亜紀書房、2021)を読む。



「プロローグ」から引用する。


  「私は適任ではないと思うのですが」
  「おもしろおかしくしたいから聞いているんだろ」
  「いや、何が問題と思っているかを聞きたいから、
  聞いているんです」


  二〇二一年二月四日、
  新型コロナウイルス感染症の感染拡大により一年延期された
  東京2020オリンピック・パラリンピックの開催まで
  残り半年を切ったこの日、
  大会組織委員会森喜朗会長(当時)が会見を開いた。
  自身の女性蔑視発言について
  釈明をするために開かれたこの会見の場で、
  私は森会長に向かってこう問うた。
  (略)


  私は東京にあるラジオ局の、
  局でたったひとりの専業記者だ。
  この三年ほどは、災害取材などを除いては
  国会周辺を中心に取材をして来た。
  自ら「国会担当記者」と名乗ることもあるが、
  ひとりしかいないので実は担当も何もない。
  何か起きれば取材に出かける。
  ただ、二月の森氏の会見がきっかけとなり、
  以降も東京オリンピックパラリンピックをめぐる取材を進め、
  会見に頻繁に足を運ぶようになった。
  (略)


  本書では「マス」とは言えないメディアのラジオ記者が、
  時に大手メディア記者たちから軽んじられながらも、
  日々どのような取材をし、何を伝えようとしているのかを
  お伝えできればと思っている。
  また、ラジオというメディアが
  どういった特性を持っているかも述べてみたい。
  これまでラジオはどんな声を拾い、
  これからどんな声を届けていくのを。
  
                          (pp007-010)


澤田の経歴が面白い。


  1983年福島県出身。
  演劇一家に生まれ、高校時代は演劇部で演出を担当。
  民俗学を学ぶため琉球大学に進学し、クイズサークルに所属。
  大学院は東北大学に進み、教育学を学ぶ。


  当初は広告業界への就職を目指していたが、
  紆余曲折あり2009年TBSラジオに入社。
  バラエティー番組ADを経て2010年にラジオ記者となる。
  東日本大震災取材後、2013年にTBSテレビに出向し
  報道局政治部記者、ニュース番組ディレクターを務め、
  2016年に再びTBSラジオへ戻る。
  ニュース番組のディレクターを担当したのち、
  2018年からは国会担当記者となる。


  取材範囲は政府、国会、省庁のほか、
  新型コロナ、東日本大震災、高校演劇など。
  好きな色はピンク。


30代のジャーナリストが
ラジオから誕生したことを心強く思う。
これからも澤田の報道に耳を傾けたい。


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(出版記念に実施されたオンラインセミナーに参加し、サイン本を購入した。
 執筆を勧めた盟友・武田砂鉄のサイン・イラスト入りポストカードがおまけ)


(連読すると、ラジオのいまを現場の言葉で体感できる。武田砂鉄責任編集)