書名、腰巻の惹句(「本物の知性をなめるなよ。」)は
本書を出す編集者の心意気と受けとめた。
それだけの内容がある新書だ。
池上彰・佐藤優『無敵の読解力』(文春新書、2021)を読む。
「はじめに」(池上彰)から引用する。
どうも、このところ日本社会には
反知性主義が蔓延(まんえん)しているのではないか。
与野党を問わず数多くの政治家の発言から、
知性の煌(きらめ)きが感じ取れません。
教養という言葉は、どこに消えたのか。
いくらなんでも、もう少し何とかならないものか。
(略)
万巻の書を読み続けてきた佐藤氏と一緒に
多数の書籍を読み解き、その現代的意味を考えるのは、
実に知的興奮を味わう時間でした。
そんな珠玉の時間を、読者のあなたにも持っていただきたい。
そんな思いを持って、この書を世に出します。
(pp 4-5)
「おわりに」(佐藤優)から引用する。
日本の政治家や実業家の話に独特のクセがあるのが
問題の基本にあると私は考える。
これらの政治家や実業家の話は、
「こういうことがあった」「ああいうこともあった」
「そのとき俺はこういう努力をした」というエピソードの羅列で、
これらのエピソードに通底する普遍的規則を導き出そうとしていない。
若い世代からすれば
「俺が若い頃は、助けてやった海亀の背に乗って
竜宮城に行ったもんだ」
というようなおとぎ話の類いに聞こえるのである。
(略)
重要なのは、
アカデミズムで行われているテキスト批判、解釈学の手法を
入口だけでもよいので
政治家やビジネスパーソンの読書に取り入れることだ。
その結果、日本人の読解力が飛躍的に向上するだろう。
(pp 254-255)
担当:前島篤志(文春新書編集長)
構成:石橋俊澄
池上・佐藤の対論は、
「ああ、面白かった」で本を閉じてしまえば
滋養が自分のものになりにくい。
本書で取り上げられた書物から、
自分の気になったものを手にして、
「テキスト批判、解釈学の手法」で読み解いていくのが
力をつけるトレーニングになる。
その手法のヒントは本書に散りばめられている。
残る課題は、
政治家・実業家の何人が本書を読み、
読解力向上を武器にして、教養を広め深める実践をするかだ。
心配ではある。