小川公代評:樋口恵子『老(お)〜い、どん! 2 どっこい生きてる90歳』(婦人之友社、2022)

クリッピングから
朝日新聞2022年7月16日朝刊
「読書/売れてる本」小川公代評(英文学者):
『老(お)〜い、どん!2 どっこい生きてる90歳』
樋口恵子<著>


(3刷4万2千部)


  この本を読み進めると、
  「ヨタヘロ」「テクノローバ」のオノマトペなどを駆使した
  樋口恵子さんの溌剌(はつらつ)とした言葉が
  淀(よど)みなく紡ぎ出されていて、たのしい。
  また「リケ女」といった最新略語をも自在に操る文章からは
   "ヨタヘロ" 感が微塵(みじん)も感じられない。


  「高齢者のだれもが少しずつボケる1億総ボケ社会。
  笑えない話ですが、笑いながら考えていくより仕方ありません」。
  ケタケタと樋口さんの笑い声が聞こえてきそうである。
  しかし、若々しいエネルギーが充満するこの筆致とは裏腹に、
  樋口さんご自身が今経験されている「本当の老い」
  ー 身体の不具合、精神的な落ち込み、経済的負担など ー が語られるとき、
  「笑えない話」の意味がストンと腹に落ちる。
  (略)


  樋口さんのように有識者としての「権威」をもつ人が
  あえて権威の外から言葉を紡いでいることは
  実は稀有(けう)なのではないだろうか。
  (略)


  年とともに「自己決定権」を失っていく高齢者もまた社会的弱者であるが、
  「当事者である本人を可能な限り尊重していただきたい」
  と訴える(『老いの福袋』)。
  謙虚に、しなやかに、かつ大胆に社会を変えようとする
  樋口さんの活動を見守っていきたい。



(17刷10万部)

(16刷27万部)


(評者最新作)