村上陽一郎評:青野由利『ウイルスって何だろうーどこから来るのか?』(ちくまQブックス、2022)

クリッピングから
毎日新聞2022年8月6日朝刊
「今週の本棚」村上陽一郎科学史家)評
『ウイルスって何だろうーどこから来るのか?』
青野由利著(ちくまQブックス・1210円)



  かつて、ウイルス学者川喜田愛郎(よしお)先生に
  『生物と無生物の間』(岩波新書)という名著があった。
  のちにこの題名をほとんどそっくり頂いた書物も出版されたようだが。


  青野由利さんの本書は、川喜田版の後継として、
  多くの人に親しんで貰(もら)える、小さいけれど、好著となった。
  ウイルスが史上初めて結晶として捕らえられた
  タバコモザイクウイルスの話から、
  DNAやRNAがほとんど裸で存在するのがウイルス、
  という一つの結論まで辿(たど)り、
  現コロナについて、インフルエンザのそれとの違いも含めて
  丁寧な解説がある。


  新しい情報の一つは、中国の研究者石正麗さん
  (直訳すれば「蝙蝠女(こうもりおんな)という名で、
  国際的に通っているという)の仕事を通じて、
  今回のコロナウイルスの出所を
  明らかにしようとしてきた論点だろう。


  また、人類とウイルス感染症との戦いのあらましと、
  今回のコロナに対するワクチンに関してのきちんとした説明がある。
  この辺の記述は、何となく不安を持つ人々には、
  ぜひ読んで欲しいところだ。
  というわけで、川喜田版のコロナ応用編とでも言おうか。
  最後の将来への展望も、頭に刻んでおきたい。