武田砂鉄『今日拾った言葉たち』(暮しの手帖社、2022)

クリッピングから
毎日新聞2022年10月22日朝刊
「今週の本棚」著者 武田砂鉄(たけださてつ)さん
『今日拾った言葉たち』暮しの手帖社・1870円



  新聞や雑誌、テレビ、ラジオに加え、
  近年はSNSの普及で、だれもが意見を発信するようになった。
  そこから心の網にかかった延べ194の声を拾い、
  現代社会に警鐘を鳴らしている。


  「税収というのは国民から吸い上げたものでありまして」。
  2016年の参院決算委員会での安倍晋三首相(当時)の発言だ。
  うっかりの一言かもしれないが、
  権力者が国民をどう見ているかを如実に示していると解説した。


  登場するのは、政治家や著名人だけではない。
  市井にこそ社会課題や興味深い視点が現れるという意識から、
  未就学児、学生、主婦、高齢者の意見も多く採用した。
  90歳女性が17年、新聞の投書欄に投稿した一文
  「そうだ国会議員はどうだろう」が好例だ。


  今後、認知機能が低下するかもしれない自分に
  何ができるかを考えたとき、
  「記憶にございません」
  「(資料は)見当たりません」
  と、決まり文句を繰り返す国会議員が浮かんだ。
  「こんなにも記憶をなくしても怒られない職場はないだろう」
  という著者の評には痛烈な皮肉がこめられている。


  1982年東京生まれ。
  祖父は新聞記者で、本に囲まれて過ごした。
  高校時代はハードロックやヘビーメタルに夢中で、
  音楽評論を読みふけった。
  約10年間の出版社勤務を経て
  2014年にフリーライターとして独立。


  ペンネームの砂鉄は、長年の友人の提案という。
  「砂鉄はだれにも身近で、磁石からはがすのが大変。
  楽しく、こだわっていく決意を反映し、ぴったり」と話す。
  まえがきで、雑誌『暮しの手帖』の名編集長
  として知られた花森安治の言葉
  「暮しを軽蔑する人間は、そのことだけで、軽蔑に値する」を紹介し、
  「暮しを軽蔑する人間は、言葉を大切にしない人間だ」と発展させた。


  「コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻など、嫌なことばかり起きる。
  だが、市民は従っていればいい、と言わんばかりの権力者。
  声を出していかないと大変なことになる」

                  文と写真・田中泰義


(砂鉄さん、少年のように見えるけどもう40歳。頭脳明晰、舌鋒鋭い)