『資本論』は精神安定剤だった(下川裕治)


土曜日はコインランドリーで洗濯の日。
洗濯40分、乾燥45-60分(ジーンズがある場合は60分)が
だいたいの目安。
待ち時間を活用して
駅前区民センター4FのK図書館に行く。



窓口で保存用新聞をお借りして、
読み漏らした分の毎日日曜朝刊「今週の本棚」を読む。
2017年11月19日「昨日読んだ文庫」
下川裕治(旅行作家)


   20歳代の後半、長い旅に出た。
   アフリカやアジアを1年近く歩いた。
   ザックのなかには文庫本の『資本論』が入っていた。
   この本を読み切ることが目標でもあった。


   ズボンは穿(は)いているもの1本という旅なのに、
   『資本論』は全9冊。
   気温が50度にもなるスーダンの砂漠で、
   何度、本を捨てようと思ったことか。


資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)


   内容は難解だった。
   しばしば数式が登場する。
   なかなか先に進まない。
   内容も、わかったような、わからないような……。


   しかし安宿の裸電球の下で開くと妙に落ち着いた。
   昼間、リキシャに乗って運賃を騙(だま)された。
   そのおじさんの顔が消えていく。
   理論はいっこうに頭のなかに蓄積されないのだが、
   『資本論』は精神安定剤だった。
   文庫本には、そんな役割があったことを知った。



僕が通勤で使っているトートバッグには
このところずっと『資本論』が入っている。
高畠素之訳全5巻(改造社)を読み終え、
岡崎次郎訳全9巻(大月書店・国民文庫)で再読に挑戦し、いま第3巻。
マルクス自身が書いた原著第一巻最後の1/3まで読み進めてきた。



(脳を使うと糖分を要求してくる。森永あずきキャラメルを一粒)


難解だが、実りの大きい古典に取り組む行為は
もうひとつの旅だ。
スーダンの砂漠で文庫を捨てなかった旅人・下川に、
通勤旅人の僕は静かに共感する。


唯識の思想 (講談社学術文庫)

唯識の思想 (講談社学術文庫)

(この半年間、下山の鞄に入っている文庫本。45ページまで読み進んだ)
12万円で世界を歩く (朝日文庫)

12万円で世界を歩く (朝日文庫)

(文中敬称略)