スクラップブックから
朝日新聞2018年4月16日朝刊
月1回掲載「声—語りつぐ戦争」
特攻中止命令 終戦の2日前
無職 大谷光弘(広島県 89)
13日(引用者注:1945年8月)。
いよいよ出撃、別れの日。
私と運命を共にする通称「赤とんぼ」に乗り込んだ。
本来は練習機だが私に与えられた特攻機で、
250キロ爆弾が装着されていた。
「落ち着け」と震えの止まらない自分に言い聞かせ、
「さようなら」と誰に言うでもなく心で言った。
(略)
その時、飛行長が前に立ちはだかりバッテンの合図をした。
作戦中止だ。何が何だか分からない。
「みんなは若い。しっかり生きていけ」
と威厳に満ちた飛行長の言葉。
「生きたのだ」と「情けない」の気持ちが交錯し
涙が出て仕方がなかった。
終戦の2日前のことだった。
決して忘れられない16歳の夏。
戦争が人の暮らしをどう変えるか、人の命をどう扱うか、
具体的に、個々人の視点・体験で伝わる投稿特集だ。
自分に置き換えて記事を読んでいると、身震いさせられる。
飛行長の決断が、16歳の大谷さんにとって
生死を分ける運命の瞬間だった。
(文中一部敬称略)