なぜ中国は香港に軍事介入しないのか

クリッピングから
朝日新聞2019年8月29日朝刊(国際面)
「地球24時」 香港 航空業関係者20人解雇


  「逃亡犯条例」改正案を機に政府へのデモが続く香港で、
  20人の航空業界の関係者が相次いで解雇された。
  香港メディアが28日、労働団体の話として伝えた。


  背景には、社員のデモ参加を黙認してきた香港の経済界に対する
  中国政府のいら立ちがあるとされる。
  多くは最大手のキャセイパシフィック航空の従業員だといい、
  同社が圧力の「標的」となった格好だ。


  相次ぐ解雇のきっかけとなったのは、
  中国の航空当局が9日、同社に出した警告。
  違法な抗議活動に関与した従業員の中国本土便への業務を
  禁止することなどが盛り込まれた。


  香港と中国本土を結ぶ便は同社の収益源となっていることから、
  株価も一時急落。
  最高経営責任者(CEO)が16日に辞任に追い込まれる事態に発展した。
  中国当局と株式市場からの「二重の圧力」を受け、同社の姿勢は急変。
  香港メディアによると、デモに参加して
  暴動罪で起訴されたパイロットの男性らが次々と解雇された。
  (略)
                            (広州)


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デモ隊が香港の空港を占拠し機能を麻痺させたことで
中国の強権発動があるのではないかと予想していた。
けれども、思ったほどのリアクションではなかった。
どうしてなんだろう?


民主化勢力は「逃亡犯条例」不成立で
いったん退却するのが上策だと僕は考えていた。
デモ隊は空港占拠することで、
不用意に一線を越えてしまったと思えた。


佐藤優さんの見方が参考になった。
以下、引用する。


  佐藤:それから中国としても、じゃあ天安門のように
     戦車を出して鎮圧できるかといったら、物理的にはできますよ、でもやらない。
     どうしてかというと、香港を一国二制度につくっているというのは
     きれいごとじゃないんですよ。
     中国政府の高官たちがさまざまな蓄財をしているんですよ。
     そのなかには不正蓄財もある。


     あと、中国政府の高官の子どもたちとか、
     アメリカとかイギリスとか留学しているでしょ。おカネはどうやって流す? 
     どこにおカネを立て替える? 香港ですよ、経由は。
     それから、香港に親族によってつくらせたダミー会社がたくさんある。
     だからもし、香港で本格的に軍事介入して徹底して鎮圧することは
     中国軍の力からすれば簡単にできるけれど、
     やってしまったら政府高官たちのお財布がなくなっちゃう。
     (略)


  佐藤:今回驚きなのは、香港というのは元々そういう場所だから、政治化しない。
     ところが今回、若い人たち、即ち中国に統合された後に生まれ育ってきた世代が
     そういうふうになっているということは、これは中国としたら脅威で、
     実は潜在的には北京や南京をはじめ
     中国にはそういう若者たちがたくさんいるということですよね。


  邦丸:ですよね。


  佐藤:そうすると、もし中国の本土で同じことが起これば、
     これは天安門と同じ、力を使いますからね。
     ですから中国としては本当にアタマを悩まして、
     とにかく「安定か混乱か」という二分法を使うことによって、
     少しでも世論を安定に向けて、
     それで極端な人たちを見せしめ的な形で処罰するんだけれども、
     付和雷同して加わった人はお咎めなし。
     こういうような形で早く分断しちゃいたい。
     その第一歩に着手したという感じだと思います。


  邦丸:はあ~。


  佐藤:今回の空港の占拠とか飛行機をマヒさせるというのは、
     中国当局にとってすごく都合がいいんですよ。
     これは圧倒的多数の市民の共感を得ないですからね。
     香港の経済の基盤を壊すので。
     ここのところで逆に、ちょっと穿った見方かもしれませんけども、
     本当は空港に入っていってデモを阻止することができたかもしれない。
     ところが、そこは敢えて泳がせている可能性がありますよ。
     それは、ここまでひどい状態になるかって危機感を一般の市民に持たせる。
     (略)


            佐藤優 “佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol.163
            第4部 文化放送「くにまるジャパン極(きわみ)」発言録より引用
                                (2019年8月16日放送)



追記:
  朝日新聞2019年8月30日夕刊
  香港 雨傘運動元リーダーら拘束


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  2014年の民主化デモ「雨傘運動」で学生リーダーとして活動した
  民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏=写真右=と
  周庭(アグネス・チョウ)氏(22)=同左=が30日朝、香港で警察に拘束された。
  2人が所属する香港の政治団体「香港衆志」が明らかにした。


  2人は今年6月、1万人超の市民が警察本部を包囲して
  「逃亡犯条例」改正案撤回などを要求した抗議デモに参加し、
  黄氏はマイクを握って演説した。
  香港メディアによると、2人はこの抗議デモで、
  参加者を扇動した容疑などで拘束されたという。


  黄氏は14年、雨傘運動を代表する人物として、
  米タイム誌の表紙になったことがある。
  今年6月、雨傘運動に絡む罪での服役を終えて出所した。
  周氏は雨傘運動の「女神」と呼ばれた。
  (広州)


佐藤さんの言う「見せしめ」の処罰を当局が必要としているなら、
黄氏、周氏の拘束は象徴的な意味を持つだろう。