『かがみの孤城』で遅ればせながら僕もファンになった、作家・辻村深月。
図書館に予約していた『ツナグー想い人の心得』の順番が回ってきて読了し、
この作品も設定、ディテールが気に入った。
前作があることを知り、しめしめとまた借りてきた。
辻村深月『ツナグ』(新潮社、2010/新潮文庫、2012)を読む。
17歳の男子高校生、渋谷歩美(しぶや あゆみ)の台詞を引用しながら
「使者(ツナグ、と読む)」の役割とルールをまとめておこう。
死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口。僕が使者です。(p.11)
恐山(おそれざん)のイタコのような形を想像してるんだとしたら、それは違います。
霊能者たちが死んだ人間を自分に憑依(ひょうい)させたり、
彼らからのメッセージを受け取って
あなたに話すというようなスタイルを取るわけではない。
僕は、あなたが希望する、すでに死んでしまった人とあなたが会う機会を用意する、
あくまで単なる面会の仲介人です」(pp.16-17)
まず、使者は、生きている人間、たとえばあなたからの依頼を受ける。
物理的にはすでに会うことが不可能になった、死んでしまった人間の誰に会いたいか、
依頼を受け、持ち帰って、対象となった使者に交渉します。
あなたが会いたがっていることを伝え、
それに応(こた)え、会うつもりがあるかどうか意志を確認する。
了解が得られれば、段取りを整えます。(p.16)
生前と変わらない姿で現れます。(略)
使者の用意した面会の場で、使者の魂は実体を持つことが許される。
生きた人間は、現れた死者を目で見ることはもちろん、触ることもできます。(p.18)
面談は死んだ者と生きた者、どちらにとっても一度きりの機会になります。
一人の死者に対して、会うことができる人間は一人だけです。(p.29)
死者に会えるのは、一晩だけです。
これから交渉し了承を得られれば、時間と場所を指定しますが、
通常は午後七時くらいから、
夜明け、今の時期だと午前六時くらいまでということになります。(p.33)
費用について使者はこう説明している。
いらないですよ。(略)ボランティアです。(p.35)
使者に連絡が取れるかどうかについては
先代の使者を務めた渋谷歩美の祖母がこう言っている。
こういうのは巡り合わせなんだよ。
(引用者注:固定電話を見ながら)何度かけても繋がらない人がいる一方で、
本当に必要な人のところには、きちんと使者との縁がやってくるようになってる。
私のいない間にかけてきてくれた人たちには悪いけど、
繋がらなかったのは、それもまた巡り合わせなんだ。(p.361)
こうした設定をたとえ思いついても、
物語のディテール、文章力が付いてこなければ
作品は空回りするばかりだろう。
第一作、第二作ともに各5編、そのどれもディテールが読ませる。
僕が一番印象に残ったのは「親友の心得」で、
第二作の続篇を先に読み、今回第一作で全貌がつかめた。
もう一度、続篇を読み直したくなったな。
『ツナグ』第一作で
第32回(2011)吉川英治文学新人賞受賞(講談社主催)。