あてもなく大型書店をぶらつくことがある。
Book 1st.、紀伊國屋書店、三省堂書店。
なんだか自分に呼び掛けてくるような本に出会うことがある。
この日は、読書猿『独学大全』(ダイヤモンド社、2020)に出会った。
「また一冊、勉強本が出たのかな」くらいの気持ちで通り過ぎたが、
気になって、売り場を一回りして戻ってくる。
真ん中辺を適当に開いて読む。
精読 難所を越えるための認知資源を調達する
技法43 筆者 Scribing
(略)
②テキストを少し読み、記憶してから書き写す
テキストを一定量、頭に蓄えてから一度目を離し、
テキストは見ずに頭にあるものを紙に向かって書き出す。
これを暗写という。
「暗唱+筆写」のことだ。
(略)
日本初のフィールズ賞受賞者である数学者の小平邦彦は
「数学に王道なし」(小平邦彦編『新・数学の学び方』(岩波書店、2015)収録)
という文章の中で、自分が続けてきた学習法について繰り返し触れている。
「さて、数学の学び方であるが、数学の本を開いて見ると、
いくつかの定義と公理があって、定理とその証明が書いてある。
定理を理解するにはまず証明を読んでその論証を辿って見る。
それで証明がわかればよいが、
わからないときは繰り返しノートに書き写してみると
大抵の場合わかるようになる。
わからない証明を繰り返しノートに写す、
というのが数学の一つの学び方であると思う」
(pp.528-532)
この箇所で僕は思わず膝を打った。
芳沢光雄『新体系・高校数学の教科書』(上)(下)
(講談社ブルーバックス、2010)で数学を学び直している。
高校時代には理解できたはずの内容に
頭が拒否反応を示しついていけない現実に愕然とした。
- 作者:芳沢 光雄
- 発売日: 2010/03/19
- メディア: 新書
急ぎ足で行こうとはやる気持ちを抑え、
本文も証明も練習問題も一字ずつ筆写し、
得心してから自力で再挑戦するように方針を変えた。
読書猿が引用した小平邦彦の言葉は、
レベルこそまったく異なるとは言え、自分の体験に照らして納得できたのだ。
結局この本を手元に置きたくなって購入した。
本文752頁、索引34頁、さらに「独学困りごと索引」が付いている。
定価は2,800円+税。
これだけの大冊をよくこの値段で出せたな、
と版元(ダイヤモンド社)にも感心した。
「序文 学ぶことをあきらめられなかったすべての人へ」を
読書猿はこう書き終える。
この本は確かにあまり賢くなく、
すぐに飽きるしあきらめてしまう人たちのために書かれた。
独学の凡人である私には、これが精一杯である。
しかし独学の達人が書いた書物よりもきっと、
繰り返し挫折し、しかしあきらめきれず、
また学ぶことを再開したような、独学の凡人であるあなたの役に立つだろう。
知識の大海にこぎ出ていくあなたにエールを。
お互いの航海の無事を祈りつつ。
(p.32)
自分に必要な本は書棚から静かにオーラを発している。
ささやくような呼び掛けに応え、
財布のヒモを緩めることもときには必要だ。
心にも栄養とケアが要る。
独学の凡人でありたい僕の心に響いた一冊だ。