島田雅彦『空想居酒屋』(NHK出版新書、2021)

料理の腕のレベルは比べるまでもないが、
「たちのみ大王」「大王まかない食堂」店主として気になった本。
島田雅彦『空想居酒屋』(NHK出版新書、2021)を読む。


空想居酒屋 (NHK出版新書)

空想居酒屋 (NHK出版新書)


「はじめに」から引用する。


  そこに酒があり、ドリンカーがいれば、即酒場。
  自身の中に様々な交代人格を育てる作業を行っているわりに、
  一人机に向かってばかりいるので、他人と接する機会が少なく、
  異なる分野の人同士が参集して、
  一つのプロジェクトを進めるような仕事に憧れがあった。


  その欲求を満たすため演劇活動に関わったこともあったが、
  今では別の転職希望を胸に秘め、
  酒を飲みながら放心している時などに
  極めて具体的なプランを練るのが癖になった。


  そのプランというのは自分の居酒屋を開くことである。
  実際に経営者になったら、仕入れや採算や接客に悩まされるだろうが、
  空想ならどんな奇抜なメニューやポリシーを打ち出そうが、
  思いのままである。
  (略)


  いつしか、これまで訪れた数々の実在の酒場と
  その思い出が酔った頭の中で渾然一体となり、
  理想の酒場が私の想像の中で開店した。
  それを「空想居酒屋」と名付けよう。
  (略)

                          (pp.7-8)


当方も「たちのみ大王」で一杯やりながら
ゆっくり頁を繰る。
目次は以下の通り。


  1 マッコリタウンの夜
  2 「離れ」としての居酒屋
  3 臨時居酒屋の極意
  4 「揚げ物王」はどれだ?
  5 屋台というハッピー・プレイス
  6 豆腐と卵

  <コラム> レモンサワー礼賛

  7 空想「鍋フェス」
  8 空想居酒屋の「炊き出し」
  9 魅惑の寿司屋台
  10 健康度外視珍味偏愛
  11 鰻

  <コラム> ヴェネチアのウブリヤッコ

  12 コロナの時代の食
  13 免疫向上メニュー
  14 ポスト・コロナの飲食店の行方
  15 闇市メニュー
  16 奇想料理とベジ呑み
  17 スープで呑む
  18 世界の屋台に立つ
  19 「何処でも居酒屋」開店

  <カラー> ドキュメント「何処でも居酒屋」vol.1

  20 歓迎光臨 天ぷらMasatti(マサッチ)

  <カラー> ドキュメント「何処でも居酒屋」vol.2

  レシピ一覧


本稿をNHK出版WEBマガジン「本がひらく」連載中
(2019年4月-2020年11月)、世界はコロナ禍に襲われた。
島田は最後にこんなエールを送る。


  これにてエア呑みからリアル呑みへと展開した
  私の「何処でも居酒屋」は閉店。
  (略)


  本書も一応の区切りをつけるが、
  「空想居酒屋」の考察と「何処でも居酒屋」の実践の成果を
  苦境にある全国の居酒屋店主へのオマージュとしたい。

                     (2020年11月)

                         (p.207)